クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
か、可愛い?
この、仕事ばかりで愛想のない、仏頂面の上司に向かって?

「あ、あの、ごめんなさい! なんか、変な言い方しちゃって——」
慌ててフォローしようとする彼女の言葉は、俺の頭には届いていなかった。理解が追いつくより先に、全身の血液が顔面に集中していくのが分かった。耳の先まで焼け焦げそうに熱い。

(まずい。これ以上は、絶対にまずい)

ここで少しでも気を緩めれば、俺が必死に築き上げた境界線が崩壊してしまう。
俺は逃げるように顔を背け、「……行くぞ」とだけ絞り出して会議室を飛び出した。

早足で廊下を歩きながら、胸の奥で暴れ回る心臓を必死に押さえつける。
可愛い、などと言われて、高校生のように動揺している自分に絶望する。

(……やはり、一刻も早く体制変更を進めなければ)

太陽は、一人で高く昇っていくべきだ。
俺のような暗い月が、その輝きに影を落としてはならないのだから。
自席に戻り、俺は半ば無意識にパソコンを起動した。
顔の熱は、なかなか引かなかった。
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