【凛視点】クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
「りんりんってさ、なんで『りんりん』なの? いつから?」

総務の女の子に聞かれて、私は首を傾げた。

「え、なんでだろ。気づいたらそう呼ばれてた」
「分かる。なんか自然にそうなるんだよね」
「りんりんって呼びたくなる雰囲気あるよな」
「そうそう!」

(……くすぐったいな)

自分の名前を、みんながこんなに自然に呼んでくれる。それが、じわじわと嬉しかった。

ふと、視線が泳いだ。

特に理由があったわけじゃない。なんとなく、フロアの向こう側に目をやっただけだった。

——先輩が、一人でいた。

自分のデスクで、お弁当ではなくコンビニのサンドイッチを食べながら、手に持った薄い資料に目を通している。周りのデスクは昼休みで空いていて、先輩だけが、静かにそこにいた。

(……一人なんだ)

別に、珍しいことじゃないかもしれない。先輩はあんなに口数が少いんだから、にぎやかな輪に混じるより、一人で過ごす方が楽なんだろう。
でも。

(……あ。今、こっち見た?)

一瞬だけ、先輩の視線がこちらに向いた気がした。すぐに資料に目が移ったから、気のせいかもしれない。

「りんりん? どうしたの」
「あ、ごめん。なんでもない!」

私は慌てて輪の中に視線を戻した。

(……気のせいだよね、きっと)
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