【凛視点】クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
昼休みが終わる少し前、輪がゆっくりと解散し始めた。
「ごちそうさまでした」「また明日ね」と口々に言いながら、みんなが自分のデスクへ戻っていく。

私もお弁当箱を片付けながら、もう一度だけ、フロアの向こう側に目をやった。

先輩は、もうサンドイッチを食べ終えていた。
片手に持った資料を見ながら、缶コーヒーを飲んでいる。
——ふいに、なぞるような先輩の視線がこちらへ流れてくるのを感じた。

(あ)

目が合った、気がした。
ほんの一瞬、焦点が重なっただけの、心許ない時間。

先輩はすぐに、何事もなかったように手元に目線を落とした。

(……見てた、のかな)

少しだけ、胸の奥がざわつくのを感じた。
離れた営業部の席から、わざわざパーテーション越しにこちらを伺う理由なんて、仕事以外には思い当たらない。

(……やっぱり、騒がしすぎたかな)

「ランチタイムくらい、もう少し静かにしろ」とでも言いたげな、上司としてのチェックだったのか。
それとも、単にぼんやりとフロアを眺めていただけなのか。

(……考えすぎか)

小さく首を振って、お弁当箱をカバンにしまった。
< 21 / 31 >

この作品をシェア

pagetop