クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
「……で、用件はこっちだ。これ、返しておくよ」

差し出したボロボロの「初期企画書」を見て、彼女は息を呑んだ。
一年半前、俺が彼女の領域に踏み込むきっかけになったものだ。これを返せば、二人の関係はただの「部署が違う社員」に戻る。

「……先輩、これ……」
「うん、全て終わったら返そうと思ってた。見た目はちょっとよろしくないが、今後の君の役に立つと思って。良かったら使ってくれ」

彼女の顔を見ないようにして、淡々と告げる。
だが、視線を上げた瞬間――俺の心臓は大きく脈打った。

「……ありがとうございます」

消え入りそうな声。今にも泣き出しそうなのを堪えながら、それでも真っ直ぐにこちらを見ていた。

そんな顔で俺を見つめるな……

(……駄目だ。限界だ)

彼女のその表情を見た瞬間、腹の底でギリギリ保っていた理性が、音を立てて崩れそうになった。
これ以上この距離にいれば、絶対に触れてしまう。その細い肩を抱き寄せ、「ずっと側にいたい」と、絶対に言ってはいけない本音を吐き出してしまう。

逃げなければ……!
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