クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
俺は咄嗟に、作業途中だったモニターのウィンドウを乱暴にすべて閉じ、「……よし。ちょうど一区切りついたところだ」と、誰に対する言い訳ともつかない嘘を吐いた。
そして、逃げるように「じゃあ」と短く言い、パソコンを落としてわざとゆっくり席を立った。

「……えっ、もう帰るんですか? 飲み会は?」
「うん、さすがに残業続きでちょっと疲れてて。りんりんもここんとこハードだったろ」

動揺を悟られないよう、必死に穏やかな顔を作って笑いかける。
そして、これ以上彼女が踏み込んでこられないよう、最後にもう一枚、分厚い壁を作った。

「若いから俺とは違うとは思うけど、あまり飲みすぎないようにな」

「若いから」。

わざと年齢と立場の差を強調するような言葉を選んだ自分が、ひどく惨めで卑怯に思えた。

「はい……お疲れ様でした……」

彼女の傷ついたような声を背中で受け止めながら、俺は逃げるようにエレベーターホールへと歩き出した。
カツン、カツンと、自分の靴の音だけが静かなフロアに虚しく響く。

(……これでいいんだ。これで)

ただの後輩だと言い聞かせながら、一番子供じみた逃げ方をしているのは、間違いなく俺の方だった。
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