クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
「ちょっと飲みすぎて気分悪くなっちゃって。先に帰ろうと思ったら、先輩の背中が見えて! 先輩も先に帰ってたんですね?」
「……ああ。まあ、少し疲れててな」
「先輩、仕事し過ぎじゃないですか? あ、駅まで一緒にいいですか?」
「あ、ああ。……りんりんは体調、大丈夫なのか?」
「はいっ! 外の空気に触れたらなんか大丈夫になりました!」

無邪気に笑うその顔を見た瞬間、年末年始をかけて必死に積み上げたはずのものが、静かに崩れていくのを感じた。

「……そうか…それなら良かった」

俺は小さく息を吐き、彼女の歩幅に合わせるように、いつもより少しだけ歩調を緩める。
隣を歩く彼女は、この数ヶ月間背負っていたリーダーとしての重圧から解放されたのか、かつて俺の隣で騒いでいた「危なっかしい新人」の頃の顔に戻っていた。

「……先輩。私がリーダーになってから、全然話せなくなっちゃいましたね」
「……そうだな。俺も、少し変な感じだったよ。隣に、うるさい新人がいないのは」
「えーっ! うるさいって、ひどいです!……私、あれでも結構、先輩の顔色を伺いながら静かにしてた時もあったんですよ?」

ふくれっ面を見せる彼女に、俺は思わず吹き出してしまった。
「それは初耳だな」
腹の底から、自然と笑い声がこぼれる。
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