クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
彼女の弾むような声。冬の空気に混ざる、ほのかな甘い香り。
そして何より――俺を見上げる、その誤魔化しきれていない熱を帯びた瞳。

(……偶然なんかじゃない)

ふと、冷静な思考が頭の片隅をよぎった。
気分が悪くなって先に帰るはずの彼女が、なぜ俺の背中を見つけて走り寄ってきたのか。
……俺を追いかけてきたのだ。わざわざ、俺と二人きりになるために。
その事実に思い至った瞬間、彼女が俺に向けている感情の正体が、痛いほど真っ直ぐに伝わってきた。

完全に、気が緩んでいた。
夜空に浮かぶ冬の月を見上げた瞬間、アルコールの勢いと、彼女から向けられる真っ直ぐな気持ちに背中を押され、腹の底に封じ込めたはずの言葉がするりと喉元までせり上がってきた。

「……ずっと、思ってたんだ」
「え……?」
「……りんりんのこと。プロジェクトが始まってから、ずっと……」

ずっと、君のことが――。

言葉にしかけて、ハッと我に返る。
隣を見ると、彼女が足を止め、ひどく戸惑ったような、それでいて何かを期待するような震える瞳でこちらを見つめていた。
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