クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
「わかる。りんりんと組んでからだよな。なんか、表情が柔らかくなった気がする。前は『感情ある?』って感じだったのに、最近はそうでもないよな。
……てか、主任って相変わらずフリーだよな? 飲み会では普通に喋るけど私生活は謎だし、恋人はPC説、まだ生きてるだろ(笑)」
「入社以来、浮いた話ゼロだもんな。でも、デスクでふとした時に笑うようになったのは、正直かなり珍しい光景だよ」
「あいつに限って自分からアプローチなんてないだろうけど、みんなの『りんりん』を独占してるのは正直ちょっと悔しいわ。こっそり手なんか出してたらマジで許さん!」

私は給湯室入口横の壁に身を隠し、激しく脈打つ胸を押さえた。

(……先輩、彼女いないんだ)

「フリー」や「浮いた話ゼロ」という同僚の言葉に、心のどこかで深く安堵している自分がいる。

(……それに、先輩が明るくなったのって…私と組んでから、表情が変わった……?)

頭の中に、彼の横顔が浮かぶ。
無口で、感情の読めない人。けれど、お礼のコーヒーを受け取った時のあの微かな口元の緩みや、私が修正した資料をチェックする時に時々見せる穏やかな眼差し。
自分だけが見ていると思っていた彼の変化が、周りにも伝わっていた。

(私が、彼に影響を与えてる……?)

そう思った瞬間、心臓がじわじわと熱を帯び、視界がふわっと明るくなる。
嬉しい。叫び出したいほど、誇らしくて、嬉しい。
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