クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

#11 【凛視点】新年の挨拶と、止まっていた時間。――期待するのが怖いのに、もう後戻りできない

年が明けた。

年末年始の休みは、実家でのんびり過ごした。家族と食卓を囲み、地元の友人と笑い合い、好きなだけ眠って。それなりに充実した休みだったはずなのに——どこかずっと、ぼんやりしていた。

(……先輩、ちゃんと休めてるかな)

年内最終日、エレベーターホールで見送った彼の背中を思い出す。いつも通りの静かな佇まい。けれど、連日の激務で少しだけ削がれたような肩のラインが、ずっと気にかかっていた。

(……完全に、好きな人のことを考える顔してるな、私)

鏡に映った自分の締まりのない表情を見て苦笑した。
一度認めてしまった『好き』という気持ちは、会えない時間の中でどんどん膨らんでいく。
だけど、それは甘いだけの感情じゃなかった。
夜、布団の中で天井を見つめていると、決まって同じ問いが浮かんでくる。

(……先輩は、私のことをどう思ってるんだろう)

ただの「手のかかる後輩」? それとも、少しは特別な存在になれてるのかな。

コーヒーを差し入れてくれた夜。雨の中、傘を押し付けて走っていった背中。会議室で、指が触れた時の反応。
あの耳の赤さは——私だけに向けられたものなのか、それとも、私が見たいものを見ているだけなのか。

気づけば、もっと彼の心の中を知りたいと願っている自分がいる。
期待するのが怖い。…でも、考えずにいられない。
その堂々巡りから抜け出せないまま、静かなお正月の時間だけが過ぎていった。
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