クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
フロアを並んで——少しだけ彼が前を歩く形で——進みながら、こっそりとその横顔を盗み見た。
耳の赤みは、まだ引いていない。

(……太陽と月、か)

さっきは勢いで笑い飛ばしてしまったけれど、歩調を合わせるうちに彼の言葉がじわじわと胸に重なってくる。

眩しくて、どうすればいいか分からない——
もしもその言葉が、『だから俺には近づけない』という遠回しな線引きだったとしたら。
「上司と部下」という境界線を改めて引かれたような気がして、さっきまでの笑いが、すうっと引いていった。

自分のデスクに戻り、パソコンを開きながら、もう一度だけフロアの向こう側を見る。
先輩はもう、いつもの「感情の読めない上司」の顔で画面に向かっていた。

(……先輩。月だって、ちゃんと光ってますよ。……私にとっては、誰よりも)

年明けからずっと抱えていた「先輩は私のことをどう思っているんだろう」という問いが、今日も答えのないまま胸の奥に残っている。
耳の赤さも、さっきの「眩しい」という言葉も、全部こちらに向いているように見えて——でも、確かめる勇気がない。

好きが重くなるほど、怖さも重くなる。
自分の心臓の音だけがやけに速く響くのを感じていた。
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