クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
先輩が、提案した。
自分のチームから、私を外すことを。

(……なんで)

理由は分かっていた。部長の言葉通りなら、私の成長のため、独り立ちのため。 頭では、分かっている。
でも胸の奥では——足元の床がすうっと消えていくような、冷たい焦燥感が広がっていた。

(……遠ざけられるんだ)

先輩の隣で仕事をする理由が、なくなる。
週に何度も顔を合わせていた打ち合わせが、なくなる。
あの低い声で「りんりん」と呼ばれる機会が——減る。

(……嫌だ)

正直に言えば、そうだった。嬉しくない。全然、嬉しくない。
でも——。

私はフロアの窓の外を、ぼんやりと見た。

(……先輩が、提案したんだ)

彼が「独り立ちさせるべきだ」と、わざわざ部長に言いに行った。
それは——私のことを、誰よりもちゃんと見ていてくれたから、じゃないのか。
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