クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
やがて彼がマグカップを手に席を立って歩き出したので、私も自分のカップを掴んで後を追う。
西日の差し込む給湯室へ足を踏み入れると、思惑通りそこには先輩しかいなかった。
(これは仕事の相談なんだから)と自分に言い聞かせながら、私はその背中に声をかけた。
「お疲れ様です、先輩。あの、次のSNS施策なんですけど……少しだけ、相談してもいいですか」
先輩は、コーヒーマシンのボタンを押したまま、わずかに顎を引いてこちらを見た。
その瞳は、いつになく静かで、どこか冷徹な光を宿しているように見えた。
「SNSのリーダーは君だろ」
遮るような、静かな声だった。
「大丈夫だ。君の判断が、このプロジェクトの正解だよ」
私は、一瞬——言葉を失った。
それは最大の信頼の言葉であり、同時に、これ以上は踏み込ませないという拒絶のようにも聞こえた。
「……はい。そう、ですよね。……すみません」
やっと絞り出した返事は、情けないほど小さく震えていた。
先輩は短く頷くと、淹れたてのコーヒーを手に、一度も振り返ることなく給湯室を出ていった。
私は一人残され、機械の駆動音だけが響く空間でしばらく動けなかった。
(……怖い人じゃなかったはずなのに)
あの、初めてのプレゼンの帰りのエレベーター。「怖い人じゃなかった」と気づいた、あの日。
今は、少しだけ心が近づいたと思ったあの時よりも——ずっと、ずっと遠い。
西日の差し込む給湯室へ足を踏み入れると、思惑通りそこには先輩しかいなかった。
(これは仕事の相談なんだから)と自分に言い聞かせながら、私はその背中に声をかけた。
「お疲れ様です、先輩。あの、次のSNS施策なんですけど……少しだけ、相談してもいいですか」
先輩は、コーヒーマシンのボタンを押したまま、わずかに顎を引いてこちらを見た。
その瞳は、いつになく静かで、どこか冷徹な光を宿しているように見えた。
「SNSのリーダーは君だろ」
遮るような、静かな声だった。
「大丈夫だ。君の判断が、このプロジェクトの正解だよ」
私は、一瞬——言葉を失った。
それは最大の信頼の言葉であり、同時に、これ以上は踏み込ませないという拒絶のようにも聞こえた。
「……はい。そう、ですよね。……すみません」
やっと絞り出した返事は、情けないほど小さく震えていた。
先輩は短く頷くと、淹れたてのコーヒーを手に、一度も振り返ることなく給湯室を出ていった。
私は一人残され、機械の駆動音だけが響く空間でしばらく動けなかった。
(……怖い人じゃなかったはずなのに)
あの、初めてのプレゼンの帰りのエレベーター。「怖い人じゃなかった」と気づいた、あの日。
今は、少しだけ心が近づいたと思ったあの時よりも——ずっと、ずっと遠い。