クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
(……突き放されてる。分かってる。私に甘えを許さず、自分でこの壁を越えさせようとするのが、先輩なりの愛情なんだって分かっているのに)

けれど、自分のデスクに戻りながら胸の奥がじくじくと痛んだ。
泣く理由なんて、どこにもない。先輩は正しい。私はリーダーとして、自分の足で立たなければならないのだから。

(……なんで、こんなに泣きそうになるんだろう)

先輩に甘えたかったわけじゃない。……確かに、彼は「大丈夫だ」と言ってくれた。
でも、私が欲しかったのは、そんなふうに線を引くための言葉じゃなくて。
以前のように隣で、私の不安を一緒に溶かしてくれるような、あの体温のある「大丈夫だ」だったんだ。

……違う。本当は——言葉なんて、なんでもよかったのかもしれない。
ただ、彼と同じ空気の中に、一分でも長くいたかった。ただ、それだけなのだ。

席に着き、パソコンを開く。
画面には、成功を物語るグラフが並んでいる。積み上げてきた努力の証拠。
先輩が私を信じてくれたから、私はここに立っている。

(……だから、結果を出し続けるしかないんだ)

私は唇を強く噛み締め、キーボードに指を置いた。
泣くのは、すべてが終わってからだ。今は、戦わなければならない。

けれど——。
フロアの向こう側で、一人静かに画面に向かっている先輩の横顔を、私はやっぱり盗み見てしまう。

(……先輩。私のこと、ちゃんと見てますか。……私はまだ、先輩の背中を追いかけてもいいですか)

答えの出ないその問いかけは、夏の午後の沈黙の中に静かに溶けていった。
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