クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
数日後。 信じられないことに、予算が通った。 部長から「承認」の二文字が届いた瞬間、私は思わずデスクで小さく跳ね、隣のメンバーと顔を見合わせて笑った。

けれど、どこか腑に落ちなかった。 あれほど頑なだった部長を、何が変えたのか。

その日の夕方。給湯室で鉢合わせた営業の同期が、氷をコップに落としながら何気なく言った。

「あ、りんりん。SNSの予算、おめでとう。……うちの主任、部長に相当詰め寄ったらしいね」
「えっ、先輩が……?」
「なんでも、『このSNS企画は、ブランドの魂です。ここを削るなら、俺はこのプロジェクトを降りる』とかなんとか。そんなに熱くなってる主任、想像できないよね」

私は、給湯室の棚を掴んだまま、息をすることさえ忘れていた。

(……嘘。私の前ではあんなに素っ気ないのに)

「ブランドの魂だ」——彼は、そう言ったのだ。
私を突き放して、独り立ちを促しながら。その裏では誰よりも泥をかぶり、自分の立場を賭けてまで私の居場所を守ってくれていた。

驚きで固まっている私を見て、同期が「あ……」と顔を引きつらせた。
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