クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

#18【凛視点】「全て終わったら返そうと思ってた」――先輩の引き出しに眠っていたもの

一年半に及ぶプロジェクトがすべて終了し、忘年会も兼ねて開催された打ち上げの一次会。
会場は大盛り上がりで、SNSユニットのメンバーも私を最高のリーダーだと称えて酒を酌み交わしている。

けれど、グラスを傾けながら笑っていても私はどこか上の空だった。
プロジェクトのリーダーでありながら、急ぎの仕事が重なり一次会を欠席せざるを得なかった先輩のことがずっと気になっていたのだ。

やがて一次会が終わり、二次会の会場へと向かう賑やかなメンバーの波。

次の店は、会社の最寄り駅近くだった。
一次会が終わってもまだ、先輩が現れる気配はない。

(……先輩、もしかしてまだ仕事してる…?)

確信に近い直感に胸がちりりと疼く。
自分だけがこうして浮かれていることに、妙な後ろめたさを覚えて思わず足が止まった。
ここからオフィスまで、走れば10分で着く。

「あれ、りんりん、二次会行かないの?」

仲間の声に、ハッとして振り返る。

「…あ、先に行ってて! イベントで使ったデータのHDD、オフィスのデスクの上に置きっぱなしだったの思い出して。紛失したら怖いし、それだけ片付けてから合流するから!」
「えー、真面目すぎ! りんりん、早く来てよ?」
「分かってるって。すぐ行くから!」

ごまかすように笑って手を振り、私は一人、夜のオフィスへと向かった。
HDDのことが気になってたのは本当だから、ただの言い訳というわけじゃない。
けれど、早足でオフィスへ向かう一番の理由は――もし先輩がまだ仕事をしているのなら、どうしても直接伝えたいことがあったから。

イベント撤収作業やその後の報告対応にすっかり追われてしまって、イベント前夜のパネルミスの時に助けてもらったお礼をまだちゃんと伝えられていない。
その思いが、私の背中を強く押していた。
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