クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
(……先輩の用事って、なんだろう)
(……でも、その前にちゃんとお礼を言わなきゃ)

いつもなら緊張するはずの、先輩のパーソナルスペース。
先輩が一番下の引き出しに手を伸ばそうとした時、私は少しだけ身を乗り出して口を開いた。

「……あの、先輩! その前に、言わせてください」
「ん?」
「イベント前夜の、パネルの件……本当に、ありがとうございました。先輩が部長やみんなを集めてくれなかったら、私、あのままどうしていいか分からなくて……」

私が深く頭を下げると、先輩は引き出しにかけた手を止め、少しだけ目を丸くした。それから——とても優しく、目を細めた。

「……プロジェクトの責任者として当たり前のことをしただけだ。それにあの絶望的な状況でリーダーの君が逃げずに最善を尽くそうとしたから、みんなが動いたんだよ」
「でも……先輩が、いてくれなかったら」
「よくやったよ。……胸を張れ」

静かな声で紡がれた、最大の労いの言葉。
ドクン、と心臓が大きく鳴る。

先輩は照れ隠しのように視線を落とすと、そのまま一番下の引き出しを開け、少し角が丸くなった一枚のクリアファイルを取り出した。

「……で、用件はこっちだ。これ、返しておくよ」

手渡されたそれを見て、私は息を呑んだ。
それは、一年半前、このプロジェクトが立ち上がる時に私が一番最初に書いたボロボロの「初期企画書」だった。
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