クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
——駅までの静かな夜道。
一月の冷たい空気が、走って火照った頬を撫でていく。
少し前方に、見慣れた広い背中を見つけて、私は迷わず駆け寄った。

「……先輩! お疲れ様です」

振り返った先輩は、お酒が入っているのか、いつもより目元が緩んでいた。そして、一人で帰るはずだった道に突然現れた私を見て、驚いたように目を丸くした。

「……あ、ああ。りんりんか。……お疲れ様。飲み会はどうしたんだ?」

プロジェクトが終わっても、先輩は当たり前のように「りんりん」と呼んでくれる。それが、今の私にとっては愛おしくて……苦しい。

「ちょっと飲みすぎて気分悪くなっちゃって。先に帰ろうと思ったら、先輩の背中が見えて! 先輩も先に帰ってたんですね?」
「……ああ。まあ、少し疲れててな」
「先輩、仕事し過ぎじゃないですか? あ、駅まで一緒にいいですか?」
「あ、ああ。……りんりんは体調、大丈夫なのか?」
「はいっ! 外の空気に触れたらなんか大丈夫になりました!」
「…そうか…それなら良かった」

(……気分が悪いなんて、嘘。ごめんなさい、先輩。……でも、こうでもしなきゃ、追いかけられなかったから)

私の歩調に合わせるように、いつもより少しだけゆっくり歩いてくれる先輩。
その横顔を盗み見ながら、私は心の中にあったことをぽつりと口にした。
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