クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

#20【凛視点】 もう「よくできた後輩」は辞めました。——先輩の瞳が、初めて激しく揺れた日

気づけば二月になっていた。
長期プロジェクトが終わって、もう一ヶ月以上が経つ。
プロジェクトの余韻はとっくに消え、部署をまたいで先輩と関わる理由はほとんどなくなっていた。

——だから私は、芽生えた決意を胸に小さな行動を開始していた。

きっかけは、プロジェクトで私が成果を出せずに落ち込んでいた時、先輩が教えてくれた言葉を思い出したこと。


「いいか、りんりん。新しいことを形にしていく手法の一つに『エフェクチュエーション』という考え方があってな。その第一原則が『手中(しゅちゅう)の鳥』だ」
「え……えふぇくちぇ……? 鳥……ですか? 焼き鳥なら好きですけど……」
「……食うな。今の自分が持っているリソース、例えば知識・経験・人脈などを使ってできることでまずは動いてみるという意味だ。完璧な目標を立てる前に、今ある『手中(しゅちゅう)の鳥』を使って最初の一歩を踏み出せ。そうすれば、おのずと次の景色が見えてくる」


(……そうだ。先輩が言ってた。『手中(しゅちゅう)の鳥』で動けって)

今、私の手の中にあるものは何?
――進行中のプロジェクトの資料。そして、これについて『彼にしか聞けない』という正当な理由。
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