クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
「先輩、今のチームの案件なんですが、以前のプロジェクトとの整合性を確認したくて。少しお時間いいですか?」

本来なら自分で判断できることでも、あえて「プロジェクトで共同作業した先輩にしか分からないこと」を探し出しては、その度に彼のデスクへ足を運ぶ。

「先輩、このデータの確認、お願いしてもいいですか?」
「ん? ああ。……ちょっと待って、今開く」

先輩の隣に立ち、一つのモニターを覗き込む。
50人規模のワンフロア。周りには同僚たちがいて、電話の音やタイピング音が響いている。
けれど、先輩のすぐ隣に立った瞬間、そこだけが真空地帯になる。

(……もっと、近くにいたい)

私は説明を聞くふりをして、少しだけ、本当に数センチだけ身を乗り出した。

「ここ、この数値なんですけど……」

マウスを持つ先輩の手に、自分の指が触れそうな距離。ウールジャケットを脱いで白いシャツ一枚になった先輩の肩から、熱い体温が伝わってくる。

「……あ、こっちのタブですね」
私が画面を指差そうと、さらに身を寄せたその時。
「いや、それはこっちの……」
教えようとした先輩が、不意にこちらを向いた。
< 85 / 210 >

この作品をシェア

pagetop