クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日
案内されたのは、使い込まれた木目が落ち着くカウンター席。
横並びで席に着き、とりあえずの乾杯を済ませた直後。
先輩はグラスを置くと、椅子を少しだけ私の方へ向け、ひどく真面目な顔でこちらを見た。

「……りんりん。この前のことだけど。本当に、申し訳なかった。俺の不注意で……」
「はい、分かりました! 私は全然大丈夫ですっ」
「……え?」

あまりにも食い気味の即答に、先輩が間の抜けた声を出す。

「ちょ……りんりん。そんなライトでいいのか……? 俺は、取り返しのつかないセクハラまがいのことを……」
「はい! 当事者の私が『大丈夫』って言ってるんだから、この話はこれで万事解決です! このことは誰にも言ってないので安心してくださいっ」

私はにっこりと笑い、カウンターに肘をついて、隣にいる先輩の顔を覗き込んだ。

「あっでも先輩、勘違いしちゃ駄目ですよ? 女の子にボディタッチなんて、本当は即レッドカード、一発退場ですからね!」
「……っ、すまん……」
「でもほら! 今回は事故だったし。……先輩の手が、ちょっと滑っちゃっただけですよね?」
「…そ、そうか……。なら良かったけど……」

すっかり毒気を抜かれ、安堵と疲労で肩を落とす先輩。
(……いつもの仕事モードに戻られる前に)
私はグラスを傾けて、至近距離で満面の笑みを向けた。
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