偶然の再会から外交官の溺愛が止まりません
「え……それが言いたかったんですか」
 つまりジンクスなど不要だと言いたかったらしい。

「依織……」
 依織の正面に東條の椅子が用意されて、それに座る。
 東條の声に真剣さが含まれていた。
 いつの間にかスタッフがそっと部屋の中から消えたことも依織は気づいていなかった。

 まだ手袋をしていない手をそっと握られる。
 依織は胸の奥がきゅっとしたように感じた。もう何度も聞いていたはずの声なのに、今日はどうしてこんなに心が震えるのだろう。

 依織の顔を覗き込む東條の顔に普段の外交官としての冷静さなんてどこにもなくて、熱と甘さを含んだ表情をしていた。
「緊張してる?」
 低くて優しい声だ。

 依織は小さく頷く。きゅっと東條の指先に力が入った。その時、指先がとても冷たいことに気づく。

「俺も緊張しているんだ。依織が綺麗すぎて。今見ておいてよかったよ。式場でそんな依織を見たら誓いの言葉なんて頭から飛びそうだからな」
 そんな訳がない。過酷な状況をかいくぐってきた東條なのだ。
 きっと依織の気持ちに寄り添ってくれているに違いない。

 そんな心の声が表情に出ていたのだろうか。
 東條は依織に向かって苦笑した。
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