偶然の再会から外交官の溺愛が止まりません
 上手に振る舞えるわけがないと今でも思っている。
 けれど、今回はお礼の気持ちなのだ。

(せめて東條さんが嫌な気持ちにならないように、精一杯楽しく過ごしてもらえるようにしよう)
 依織はそう決めていた。


 お店には東條の名前で予約してあるとのことだったので、席に通してもらう。

 ペンダントライトの温かみのある光が店内を満たす、落ち着いた雰囲気の店だった。
 席に着くとテーブルに置かれたウォーターグラスにウエイターが水を注ぐ。

「メニューをご覧になってお待ちになりますか?」
「いいですか?」
「もちろんです」

 依織が笑顔を向けるとウエイターの後ろから東條が軽く息を切らせて姿を現した。
「お待たせしてすみません」

「今来たばかりです」
「よかった」
 ウエイターが水を注いだばかりのグラスを持ち上げて、東條が軽く一口飲む。

 こんなに急いで来てくれたのかと思うと、微笑ましい気持ちだ。
「ごゆっくりでも大丈夫でしたのに」
「待たせたくなかった」

 きゅっと口角が上がると、端整で取り付きにくそうな東條の雰囲気が少し和らぐ。
 甘さすらあるその表情に依織の心臓が騒がしい音を立てはじめた。

 気持ちを落ち着かせるために依織も目の前の水を一口飲む。
< 17 / 29 >

この作品をシェア

pagetop