偶然の再会から外交官の溺愛が止まりません
「依織、聞いてくれ。例えば、依織が海外でトラブルに巻き込まれたとする。頼めるのは日本領事館となれば、そこへ駆け込むだろう。在外邦人の命を守るのも俺たちの職務なんだ」
 これが今東條に言える最大のことなのだろう。

 きっとどこかの国でトラブルが起こり、東條はその対応のために日本を離れるのだ。
 責任感が強く、この仕事に東條が誇りを持っていることを依織は誰より分かっていたはずだ。

 それは依織も理解していた。
 だからと言って、自分の大事な人が命の保障をされないなんてことを受け入れることなど、到底できるものではなかった。

 他にはいないの? と言いたい。
 どうしても東條さんが行かなきゃいけないの? と尋ねたい。

 けれど、真剣な表情で依織を真っすぐ見つめる東條にそんなことは言えなかった。
 気づいたら両頬を涙が伝っていた。

(私に何ができるの? 大好きなこの人のために何が?)
 胸に問いかけても、答えはひとつしかない。

 依織は東條に向かって首を傾げた。
「東條さんはどうしたいですか?」

 目の前の東條がぐっと眉を顰めた。
 俯いて、ぎゅっと拳を握る。つらくて、何かを堪えている様子なのは見ていて十分に伝わってきた。

「別れて……くれるか?」
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