偶然の再会から外交官の溺愛が止まりません
 依織の目から一気に涙があふれた。自分にできるたったひとつのことが別れることしかないなんて。
 それを見て、東條が思わずといった感じで依織を強く抱き締める。

「ごめん。本当にごめん……。こんな風に泣かせたいわけじゃなかった。けれど、待てなんて言えないんだ。誰よりも君を愛してる。だからこそ、幸せになってほしい」
 別れたくなんかない。
 分からないのだろうか。東條と一緒でなければ、幸せなんてないのに。

 依織は部屋の中の違和感にようやく気付く。
 生活に必要なものが処分されていた。この部屋を出ていく準備も東條はもう済んでいる。

 強くて優しい人だ。
 いつまでもその両腕に抱かれていたかった。

「時間はないんですね」
「どうしても、依織に伝えることができなくて。俺らしくないよな。先延ばしにしていたんだ。だからこんなにギリギリになってしまった」

「いつ日本を発つんですか?」
「来週だ」
 本当に時間はないらしい。
 嫌だと言ったって、東條はそれを聞く人ではないし、もう決めていることだろう。

 それが職務なのだと言われれば、依織には言葉を返せない。
(でも嫌……!)
 側にいて、離れないでと言いたい。
 けれど、東條を尊重するのならそれは絶対に言えない。
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