偶然の再会から外交官の溺愛が止まりません
 相反する気持ちの中で依織は千切れそうな心を抱えていた。
「ごめん……依織」
 依織の名前を何度も呼んで、ごめんと東條は繰り返す。

 いつもは論理的で感情に揺れ動かされることのない人なのに、言えなくて先延ばしにしていた。
 それは本当のことなんだろう。
 それが東條の気持ちなのだ。

 東條の胸の中でひたすらに涙を流し続けて、枯れ果てるんじゃないかと思ったころ、依織はようやく顔を上げた。

「分かりました。今は別れます。でも、待っていてもいいですか?」
「君がきっとそう言うと思ったから、終わりにしようとしているんだ」

「分かっています。私のために別れようって言ってくださっていることも……」
「待つな! 終わりだ。分からないか? もう終わりなんだ。依織との関係は終わりにする。これで気が済んだか?」
「そんな……っ」
 こらえていた涙がまた頬をつたい始める。

 今度は東條は依織を抱きしめなかった。
 ソファに座っていた依織を立ち上がらせて、玄関まで連れていく。
「もう終わりだ。出ていってくれ」
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