偶然の再会から外交官の溺愛が止まりません
 聞く耳を持っていない態度だった。
 今まで東條は何があったって、依織にそんな態度を取ったことはない。
 完全な拒絶。

 依織は泣きながら、東條に頭を下げる。
「い、今まで、ありがとうございました……」
「早く……行ってくれ」
 靴を履いて、玄関を出る。外に出た瞬間、涙が零れて止まらなかった。

 泣きながらしばらく歩き、マンションと駅の間にある公園のベンチに依織は腰かけて、気持ちを落ち着かせる。

 どのようにしたら、こうならなかったんだろう。
 依織は風に揺られて音を立てるブランコを眺めながらそんなことを思う。

 答えはなかった。
 依織に回避することはできなかった。東條は職務に忠実な外交官で、その東條が決めたことだったのだから。
 手を離すことが依織への思いやり。
 それが東條の愛情であり、気持ちだった。

(どうして待てって言ってくれなかったの?)
 またじわっと目元が熱くなる。そっと目元をハンカチで拭った。
 言われればいつまでだって待つ。

 けれど帰国が約束されているわけではない中で、東條は待ってほしいと依織に言うことができなかったのだろう。
 それが依織を縛ることになるから。
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