偶然の再会から外交官の溺愛が止まりません
 以前は日常会話として使用していたのだから、全く問題はなかった。
 多少ならフランス語も話せる。

「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「はい。もちろんです」
 自分のスキルが役に立つのなら、それほど嬉しいことはない。

 会場がソシアルグランドホテルのバンケットルームのひと部屋だったのは、予想していないことだったが。
 あの時東條と目が合ったエントランス、初めて会話を交わした受付、と初めて会った時の思い出が嫌でも胸を締め付ける。

(もう、忘れなくちゃいけないのに……)
 あのつらい別れから二カ月以上も経過している。
 東條はもうきっと日本にはいないのだろう。

 未練があったから、見送ることもできずに連絡もしないままだった。
 東條がどう思っていたかは分からない。
 安心して旅立ったのか、それとも依織に気持ちを残してくれていたのか……。

「……ば、桜葉!」
 自分を呼ぶ声に依織はハッと顔を上げる。心配そうな顔で御堂が依織の顔を覗き込んでいた。
(いけない! つい考えに没頭してしまったわ)
 御堂に呼ばれていたことにも気づかなかった。

「大丈夫?」
「すみません。ちょっと考え事をしていて」
「じゃあ、いいけれど。これから会場に入るからよろしくね」
「はい。よろしくお願いいたします」

 依織はきりっと顔を引き締める。
 御堂がふわりと笑いかけた。
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