偶然の再会から外交官の溺愛が止まりません
「けれど、戻ってくるでしょう?」
 その質問には頷くことしかできなかった。
 それでも現実を話さなくてはいけない。静かに東條は口を開いた。

「ただ、時期の約束ができない。半年になるのか、あるいは二年三年になるのかも分からない。具体的にどこの国へとは言えないけれど、今回担当している案件は正直、俺の命も完全に保障されたものじゃない」

「そ、んな……だって……」
 依織はショックを受けている様子だった。
 そうだろう。普通は交際相手がどこに行くか分からないなんてことはない。

 東條自身はこういったことが起こりうる可能性があることも承知の上で、交際を申し込んでいた。
 けれど依織にそこまでの覚悟はなかったはずだ。

「依織、聞いてくれ。例えば、依織が海外でトラブルに巻き込まれたとする。頼れるのは日本領事館となればそこへ駆け込むだろう。在外邦人の命を守るのも俺たちの職務なんだ」

 彼女が言葉を失うのが分かる。海外経験が豊富だから、その状況は想像できるのだろう。

 依織が東條をじっと見つめる。伝えたい言葉がたくさん彼女の瞳の中に渦巻いているけれど、口を開くことができない様子だった。

 いろんな感情を抑えて、依織は柔らかい微笑みを浮かべた。
「東條さんはどうしたいですか?」
 依織らしい言葉だ。

 本当のことを言えば、待っていてほしい。
 けれど、その間の依織の時間を奪うことはできない。
 どうしても本心を口にすることはできなかった。
< 75 / 169 >

この作品をシェア

pagetop