天使か悪魔かそれとも魔女か~負の魂集う墓標のラビリンス~

湖の光るラビリンス 中編

武器を持っているようにも映るが、中のモンスターは、外のモンスターと違って色味が分かれておらず、わかりづらい。

次の瞬間、流星が飛んで、射貫かれ溶けていた。
[そんなんじゃない]
と言われた時の記憶も同時に蘇る。

『レーザーな。正式にはマジックレーザーという名前なんだが。俺の一番のお気に入りの武器でな。剣の方もお前大方、適当な呼び名つけて呼んでるんだろ? いいか──』

その後もゴルは、それらのことを熱く語り続け、なんかオタクと思った覚えがある。

「核はお前が拾っていってくれ」

皮の小袋を投げ渡されて、キャッチする。
見覚えのあるものであり、確か中に入れていた。

「足は止めるなよ。拾ってくだけなんだから」
「え、うん」

反射でそう答えはしたが、いま何が起きたとレトリは思う。
モンスターを倒したということは、その場に残る核を見て判断もできたが、意外なほど呆気ない。

指示通りに足は止めずに、さっと拾って袋に詰める。

その後も何度かモンスターに遭遇することにはなったが、本当にそれ以外することがなく。

何せどれもこれもが、登場と同時に一瞬で目の前から失せるのだ。

(はや……、どんなモンスターかもほとんどわからないし)

大きかった、小さかった、太っていただの、判別できたのはそれくらいなものか。

前回のラビリンスでは、一切モンスターに出くわさなかった理由も、疑問として頭の片隅に残っていたものだったが、これで氷解していくことにはなった。

これではそうなって当然。

入り口の所で初めて着るドレスに舞い上がっている間に、すべて終わっていたのだろう。

そう思うくらいに、まさにあっという間のことだった。
気付けば一階を踏破し終え、ここにもあった螺旋階段の所に腰を下ろす。

そうするよう、先に座ったゴルに目で促された為だが。

(もう終わり……? ほんとに?)

つま先を見ながら思う。

長さ自体は、前のものと同じくらいあったのだ。しかし体感的には、先述の通り。
多少の疲労感こそあれ、息も切らせてはいない。

「少し体を休めたらいくぞ。俺と違ってお前は疲れたろ」
「──実は、全然疲れてなくて」

気を使ってくれているところ悪いという気持ちになりながら、言った。

「だってさあー。わたし軽く走ってただけだし」

あごに手を置き、物憂げな顔をレトリはしてみせる。

「核拾ってただけだし。うちでやってたかくれんぼの方が、ずっと疲れるよ」

楽しいんだけどね?と付け加えつつ、思い起こされるのは、その核との出会いの日。

あの日もやっていた。

最後の二人を見つける為に森の中へと入って、その時からまだそれほど月日は経っていないというのに、今では随分昔のことのように感じる。

本来は、核というのは教会で素質を持つ子へと託されるもので、のちに奉仕という形で釣り合うだけのものを返すことにはなるが、拾えるような物では決してない。

今ならわかることではあるのだが。

何であんな場所に一つだけ、落ちていたのか。

そのことを知ってからシスターに尋ねてみたら、きっと神の思し召しですよ、と。
すると自分は殊更特別な人間にも思え、目指すことにもなった。

『わたしやるよ。ラビリンスに囚われてる魂全部救い出して、ラビリンスの悪魔も倒すから』

目を点にしたシスターの顔が、忘れられない。

『──それは、誰も為し得なかった偉業を成すと、そう言っているのと同じと理解していますか?』

『わかってるって。でももう決めたから』

ブイして言うと、シスターはふらと倒れ、大慌てで駆けよることにもなったが。

『シスター大丈夫!?』

その後にもう一度、それを成すあと一歩というところまでいった人物の話を、耳がタコになるまで聞かされることにもなった。

『よいですか、レトリ。あなたが超えようとしている人物は』

どれほどの傑物であったかと。
何せ最初の魂の解放者にして、聖女の称号を持つ。

『彼の聖女ですよ。そのことをきちんと理解しているのですか』

その功績を後世にまで語り継ぐものは多い。

『わかってる』

その身に四大天使を宿していたとも言われており、数多の奇跡を起こして人々を救う際に、必ず背にその白い翼を生やしていたことから、

[白き翼の聖女セラ]

と、彼女はそんなふうに呼ばれている。

そんな人間でもできなかったことをやってみせると、今一度宣言してみせると、シスターがそこでついに白目を剥いてしまい、言ったら笑い話のような思い出だが。

「おい、おーい」

顔の前で手を振られており、レトリはハっとする。

「ごめん。何の話してたっけ?」
「急に意識を飛ばすな」
「いや飛ばしてはないけど──あ、そう! かくれんぼのことだ! それでね、聞いて」

そのスケールの違いをそこから話し出す。
町全体を使うのは当然として、外も傍の森くらいまではオッケーと。

「わたしが鬼やる時だけだけどね。なんか最近はずっとそうだったけど。みんなもう普通のじゃ物足りないって、わがままでさ。わたしが一番お姉さんだったから、仕方なくみたいな」

話している途中から一切興味がないとばかり。
ゴルは頬杖ついた顔を横へ向け、退屈そうな顔だ。

「ごめん。つまんなかった?」

うんともすんとも言ってこない。

「何か言ってよ」
「めんどくせぇ」
「えぇー、ゴルくんツッコミ役じゃん。自分のアイデンティティを捨てるな」

「ツッコまれるってわかってて──、自覚あってやってんのな」

「わたしもそこまで自分が見えてないわけじゃないから。これちょっと遊びの範疇超えてそうだなー、とかは」

「わぁったわぁった。それよりお前気づいてたか?」
「なにを?」
「戦闘跡が残ってたんだよ。リポップ具合からしてそれなりに時間は経ってるってのに……」

「そのリポップって、またモンスターが出るって意味だよね?」

「そうだ。数が少なかった──ていうのはお前わからんか。あれが初だしな」
「ゴルくんが全部倒しちゃってたしねー」

「まあその話は一度脇に置け。重要なのは、戦闘跡が残っていたということだ。見てろ」

ゴルは左腕を前に構え、壁に向かってレーザーを撃つ。
光が当たった場所に瓶の蓋くらいの焦げ跡がついた。

「あれくらいの大きさの傷なら、三十分もあればほとんど見えなくなる」
「なるほど。それでそれで?」
「要は、かなりの攻撃力を持つ奴が既に中にいるってことだ。このままボスまでいかれかねんな……」

「それっていいことなんじゃないの?」

「先に倒されたらレベルアップしねーだろ。どういう原理なのかは未だに解明されてないんだがな。一緒に戦うってことが重要らしい」

「じゃあ早く追いかけないと!」
「そういうことだ。さっさといくぞ。休むだけ無駄なようだしな」

その言葉で一緒に腰を上げ、階段を上り始めはしたのだが。
急ぐ様子がない。
当然レトリは、そのことを疑問に思い、尋ねていた。

「なんで?」
「何がだ。走って行かないことか?」
「うん」
「普通に歩けるやつには、わからんこともあるわな」

「そういえば、ゴルくん前も結構普通に歩いてたよね?」
「だろ。でも走って行きたいってんなら、走ってやるよ。急ぐ必要があるって言ったのは、俺だしよ」

ゴルは走る構えを取ると、階段を駆け上がり始めた。その際、平坦でないこの場所でなら、流石のレトリでもと、そんなことを考えていたのだが。

鼻歌歌いつつ、易々と横についてきているのを見て、あんぐり口を開け、ぽかんだ。

「──は、ありえねぇ」
「え?」
「え、じゃねーよ。もうお前のこと同じ人間だと思うのやめたからな。今やめた」

「なんで!? やめないでよ! わたし同じ人間だよ!」

「嘘こけ! 実はカエルか、もしくはバッタ人間とかだろ。人間舐めてんじゃねぇぞ!」

「どういう意味!? でもコオロギ人間だったら、スズムシとか」
「いや絶対むりだろ……、お前何ありみたいに言ってんだ……」
「楽器弾くのが上手だし。わたしは得意じゃないけど、弾けたらいいなーって」

それを聞いた瞬間、ゴルの頭は理解不能のエラーマークに埋め尽くされることになり、やはり別種の生き物という結論が出る。

「お前の思考回路が俺にはまったく理解できねぇよ‼ 能天気な感じの俺の姉さんだってそんなぶっとんだことは言わなかったぞ‼ 論理的じゃねぇ‼」

「お姉さんはお姉さんで、わたしはわたしだよね? わかれ」

「何がわかれだ! お前、そんなの、わかりたくはないからな」
「前よりちょっと優しい言い方してきたねー。仲良くなれた感じがしてわたしも嬉しいよ」
「ほざいてんなよ……」

実際ノリに慣れてきたというか、ほだされている感はある。
歯を見せてくる笑い方が、前と違うようにも映ってはいた。
悪い気はしないと、その程度のものではあったが。

気付けば、上はもう間近。
平地を行くように駆け上ったのだ。着くのも早い。

「よし、とうちゃーく! お? おお──‼」

レトリが一足先にゴールを決め、それを目にする。

まるで、本の塔。
周りをぐるりと覆うばかりか、ぎっしりと詰まった棚が天高くも積まれて視界を覆いつくす。

前回の荒涼とした大地とは一転、ここの二階は閉じられた空間であり、また何かが争い合う気配もない。

どころかどこか、静寂を貴ぶような空気すら漂う。

フオン、フオン、と妙な音は上からしてきていたが。
目を向ける。

高い高い天井部には、幾重にも連なる巨大な輪を回す不思議な機械が付く。
中心部には、大きな球があり、それが茶、青、赤、緑の四色の光を放って、部屋に落としていた。

(きれー……、でもデッカーッ‼)

ゴルの気配が横にくると同時だ、頭の中で声がした。

──『あれには魔力が宿ってるようね。レトリ、気を付けなさい。防衛装置じゃないかしら』

「おぅわっ!? ば、ヴァンパイア!?」
「なんだ。どうした」

「うん。いま急に話し掛けられて。あれには魔力が宿ってるから気を付けなさいって。ぼうえいそうち? じゃないかしらって」

レトリはそう言って今見ていたものを指差す。

「……話には聞いていたが、マジにそんなことあるのな。まあお前だしな」

ゴルもそれに目を向ける。

「天球儀っぽいが──」
「てんきゅうぎ?」
「天体を模った、いや、いろんな星の動きを表した模型のことだ。お前の相棒の話が本当なら、実際はかなり危険な代物だぞ。ぶっ壊せりゃ話が楽ではあるんだが」

「丁度わたし近くに見に行きたいって思ってて。壊したくはないんだけど。綺麗だし」
「そうか。そいつは丁度いいな。ただしきちんと壊してはこいよ」
「了解!」

レトリは翼を広げ、羽ばたき立ったが、ほどなくだ。
規則的な動きを見せていた天球儀の輪が、高速回転し始める。
バチバチと鳴って、強く発光した。

あばあっ!?と声を上げ、レトリは落ちる。

「レ、レトリーッ‼」

そこから降ってきた雷に身を貫かれることになったレトリの傍にゴルは駆け寄る。

酷い状態だ。
頭が爆発して、ハリネズミのようになってしまっている。
すぐにむくりと起き、手櫛でそれを整えてはいたが。
リボンもきゅっと自分で締め直す。

「酷い目に遭った。わたしもう飛ばないから」
「お、おう……、お前よく生きてんな……」
「生きてるよ! 雷に打たれた程度で人は死なないから」

いや死ぬんだが、とゴルは思うが、言わない。
怒りをぶつられたことに関しても甘んじて受け入れる。面倒になりそうだから。

ご機嫌斜めなレトリからは離れていき、改めて周囲に目を配る。
一見してわかることだが、次の階へ行く階段がない。なら今回は、

(──謎解きタイプってことな)

ひとつのヒントとして、飛んだら罰があるということだ。
つまり、それをされると困る理由が相手にはある。

(まあ普通に考えりゃ上がくさいよなぁ。梯子は用意されてるようだがな──)

棚の脇に伸びるそれで上っていけば、身体能力を飛躍的に上げるモンスターを使っている魂の解放者であれば、届く距離にはある。

その罰を与える天球儀がだ。
この部屋の中で一番目立っているというのがこの上なく怪しい。

(中心部って確か、観測点だよな? つまり、観測者のいる場所と読むこともできる……か?)

これが当たっているかは不明だが、いまは他に手がかりもない。
問題は、きな臭いものを調べに行く方法。

(力業は当然なしだよなぁ。となると、二択、いや一択か)

頭に浮く突破方の内、一つはどう考えたって力業だ。

ここにある本を積み上げまくって階段にしてしまうというものなのだから、正攻法にはとても思えない。

「スマートじゃないんだよな。試す価値がないかというと、そうでもないんだが──」
「ゴルくんここの攻略法何か頭に浮いた? 次の部屋に行く扉とか階段ないもんね?」

頭脳労働となると、放っておくつもりが、意外に鋭い。
知らぬ間に横に来ていたというのもあり、手近な棚の前までそのまま連れていくと、一冊無作為に掴み取って、それを手渡す。

「わたし本読むの嫌いだけど、頑張るよ……!」

声は震えているようだったが、その熱意は伝わった。
頑張れよと思いつつ、自らも一冊手に取って、開く。

ぱらぱら捲って、ぽいと投げた。

もう一冊抜き取って、同じことをやり、その後も何度か同じことをやって、ゴルはキレた。

「ふざっけんじゃねぇ‼ てめぇゴラァ! これ作った奴出てこいや‼」

前の棚をげしげしと蹴る。何一つとして読めなかったのだ。

「読めねぇんじゃ謎解きになってねーだろうが、こんのボケカスがっ‼ 舐めた真似してんじゃねぇぞ、このトンチキ野郎がっ‼」

「ゴ、ゴルくん。いますごく嫌な予感がして」
「あぁっ?」

あ、と気づいた時には、既にバチバチと上で鳴っており、雷が降る。

「だあああああああああ!?」
「にいやあああああああ!?」

二人してその痛みにのたうち叫んで、ぱたりと倒れることにもなった。

「くっそ。が、いてぇ……」
「あー、頭が……、もーう、またツンツンだよ!」
「ぜってぇころす。おぼえとけ」
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