結婚したら義母3人と夫の愛人2人が屋敷に住んでいました(全員まとめて追い出します)【短編】





「では、これからヨルク伯爵家の家族会議を始めます」

 ディアナは「家門の財政と後継について大事な話がある」と夫、義母、愛人、家令、侍女長を呼び出した。

 第一夫人テレーぜは、今日を機会に息子の正当性を確実なものにしようと思った。
 第二夫人ドロテアは、いよいよ後継が息子に変わるのだと思った。
 第三夫人ラヘールは、予算オーバーなんて気にしていなかったし、後継もどちらでもいいと思っていた。

 愛人のローゼは、アルベルトの子供を妊娠したと主張していた。
 愛人のシャルロッテは、ローゼよりも先にアルベルトの子供を妊娠したと主張していた。

 現当主のアルベルトは、女同士の諍いを早く終わらせてくれと非常にうんざりしていた。
 家令と侍女長は、自己中心的な主たちに辟易していた。


 ディアナはもったいぶった様子で咳払いをしてから、

「まず、ローゼさんとシャルロッテさん」

 笑顔で愛人二人に顔を向けた。

「やっぱり、先に妊娠したわたくしの子がアルベルト様の後継になりますわよね?」とシャルロッテ。

「そんなの、まだ男か女かも分かんないじゃん! 勝手に決めないでよ」とローゼ。

 二人揃ってアルベルトの腕をぎゅっと掴む。彼は眉間に皺を寄せて、どちらにも身体を傾けなかった。

「えー、その件ですが」

 ディアナは家令に目配せをして、書類をテーブルに出した。

「シャルロッテさん、あなた、妊娠していませんね?」

「っ……!?」

 シャルロッテはギクリと身体を強張らせた。

「えぇーっ!」

 たちまち、ローゼの瞳が輝く。アルベルトは唖然としていた。

「医師の診断書よ。これによると、ストレスと過剰の薬物摂取で月のものが遅れているだけです。おそらく、どこかの商人に妊娠しやすいと騙されて薬品を買ったのでしょう」

 ディアナは診断書を見せながら、冷静に説明した。
 シャルロッテは顔を真っ赤にさせて俯き、ぷるぷると身体を震わせている。

「うわ〜っ、最っ低〜! アル様を騙してたんだぁ〜!」

 ローゼは勝ち誇ったように高笑いをする。

「だ、だって……。ローゼさんが妊娠したって噂があったから、わたくしのほうが先に……」

「だからって、アル様に嘘をつくなんて〜」

「……」

 ついにシャルロッテは声を上げて泣きだした。
 アルベルトは彼女に何も言葉をかけず、ただ目を閉じて黙り込んでいた。きっと彼なりに色々と思うことがあるのだろう。
 だが、ディアナはそんな感情に付き合っている暇はない。

「たしかに、ローゼさんのほうは医師の診断でも妊娠が確定しています。ですが――」

 にんまりと口角を上げるローゼに、ディアナは静かに告げた。

「それは旦那様の子供ではありません」

「なっ……!」

 女主人の爆弾発言に、部屋中が静まり返る。
 アルベルトはカッと目を見開いて、ローゼの小さく膨らんだ腹を凝視していた。

「なにデタラメを言ってるのよっ!!」

 沈黙を破ったのはローゼだった。顔を真っ赤にさせ、物凄い形相でディアナを()め付けている。

「あたしは正式な医師の診断書だってあるわ! そこの嘘つき女と一緒にしないでくれる!?」

 ディアナは困ったように肩をすくめて、

「そう。診断書は間違っていないわ。でも、計算したら明らかに数字が合わないのよ」

「どういうことだ?」

「旦那様、あなたは三ヶ月前にひと月ほど王族の西部視察に同行されていましたね?」

「あぁ。そうだな」

「医師によると、ローゼさんの妊娠はその頃の行為によるものなのです」

「なんだと……!?」

「ちょっ……!」

「そして、こちらはローゼさんが旦那様以外の殿方と、定期的に密会していた証拠です」

「なっ……!?」

「嘘よっ!!」

 調査書を奪おうとするローゼを、壁際に控えていた屋敷の護衛たちが押さえ付けた。

「その相手は、旦那様と同じ髪と瞳の色の騎士ですわ。早く妊娠してシャルロッテさんを出し抜きたかったのでしょう」

「違うっ!!」

「ローゼさん……。あなた、汚いわ……」

 シャルロッテが蔑んだ視線をローゼに向けた。

「アル様、これは誤解なんです!」

 ローゼはアルベルトに縋ろうとするが、彼は冷たく突き飛ばした。

「…………汚らわしい」

「うっ……うぅ……」

 ローゼは泣き崩れる。ディアナはそれを気にも留めずに、淡々と事を進めた。

「ということで、旦那様の子供はまだこの世にはおりませ〜ん」

「違うのぉぉっ! この子は本当に旦那様の子供なんだからぁぁぁっ!!」

「アルベルト様? こんな汚物は早く捨てて、わたくしと幸せになりましょう?」

「なによ、あんた! 妊娠したって嘘ついてたじゃない!」

「他の男と子供を作るより何億倍もましですわ」

「はぁっ!?」

「この尻軽! ビッチ!」

 ローゼとシャルロッテが掴みかかった折も折、

「やめろ」

 それまで静観していたアルベルトがついに声を上げた。それは初めて聞く重苦しい声音で、恐ろしい形相で愛人二人を見ていた。

「ここ数ヶ月、お前たちの様子にはうんざりしていた。そして、これ(・・)だ。俺はもうお前たちの面倒は見きれない」

「えっ……」

「それって、どういう……?」

「今日で俺たちの関係はおしまいだ」

 ローゼもシャルロッテも、泣き喚きながらアルベルトに詰め寄った。修羅場の始まりである。
 いろんな声や音が聞こえたが、ディアナには関係のないことだったので無視して次の議題へ移ることにした。



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