結婚したら義母3人と夫の愛人2人が屋敷に住んでいました(全員まとめて追い出します)【短編】
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ヨルク伯爵家の屋敷には、ディアナとアルベルトだけが残っていた。
義母たちは前当主によって領地へ戻った。彼女たちは一生をかけて、夫が肩代わりした賠償金の支払いのために、平民と一緒になって労働をしなければならない。
そして、愛人たちは現当主によって屋敷から叩き出された。
ちなみにギュンターは、自身には罪がないので王都に残ることになったが、彼は母親の罪に大きな責任を感じアカデミーを退学した。
「君だけが残ったな」
「そうですね」
アルベルトは妻をまっすぐに見る。その双眸は熱を帯びていて、彼の内なる情熱が宿っているようだった。
「ディアナ」
「どうされたのですか?」
「やはり、君は私の正妻に相応しいな」
「そうですか」
「あぁ。愛人たちは駄目だ。次は君のような賢い女性を――」
「あーっ! 旦那様、ちょっと待ってくださいまし!」
にわかに、ディアナは壁にかかっている時計に目を向ける。秒針はもうすぐ次の時間を更新しようとしていた。
「どうした?」
「もうすぐ時間なのです。9、8、7――」
「?」
彼女は秒針のカウントダウンを始める。
「3、2、1――……、ゼローーっ!! 旦那様、おめでとうございます!」
「は?」
「これを持ちまして、私達の白い結婚の成立でーっす!!」
「はっ!?」
この国では、婚姻後一年間一度も夫婦間で肉体関係を持たなければ白い結婚が成立し、妻は元の令嬢に戻れる。
今日で結婚一年。その白い結婚が今この瞬間、成立したのだ。
「……」
アルベルトは茫然自失と立ち尽くし、ディアナは嬉しそうに鼻歌を歌いながら身体を左右に揺らせていた。
「じゃ、私もこれで失礼しまーっす!」
「まっ……待て!」
彼ははっと我に返って彼女の腕を掴むが、彼女は顔をしかめてそれを強く振り払った。
「白い結婚は法で決まっておりますから。――あぁ、屋敷と領地のことならご心配なさらず。ちゃあ〜んとギュンター様に引き継ぎましたから。それに家令と侍女長にも!」
「あ、あぁ……。いや、そういうことではなく――」
「だから、旦那様は安心してこれからも愛人活動に励んでくださいね!」
「っ……!?」
「では、失礼します! ご機嫌よう!!」
ディアナは事前にまとめていた荷物を持って、さっさと屋敷から出ていった。
本音を言うと、ずっと己の味方になってくれた家令や侍女長たちを残して行くのは心残りだが、彼らは次男とともに新しい道に向かって前向きに取り組んでいる。
ギャンターは掛け値なしに才覚があるので、きっと大丈夫だろう。
「――じゃ、行きますか」
ディアナは生家のクシュタル家ではなく、とある公爵家へと馬車を進めさせた。
実は彼女は、水面下でちゃっかり婚活を進めていて、二度も離婚歴のある訳あり公爵へ嫁ぐことが決まっているのだ。
その公爵には小さな双子の息子と娘がいて、これがどちらも超問題児だった。
公爵邸にて顔合わせの際に、娘には花瓶の水を頭からかけられ、息子には大量のヘビの抜け殻を顔面に投げ付けられた。
この前はしてやられてが、今日はあの二人をわっと驚かせてやる。
ディアナの顔は晴れやかだ。
「ようし! 待ってろよー、愛する子供たち!」
ディアナと公爵が相思相愛になって家族で仲良く暮らすのは、また別の話……。
【終】


