結婚したら義母3人と夫の愛人2人が屋敷に住んでいました(全員まとめて追い出します)【短編】
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「こちらが若奥様の寝室でございます」
「うわぁ……! 素敵!」
侍女長から案内された部屋は、母屋の二階の角部屋だった。
義母や愛人がいるぶん待遇面に不安は残っていたが、そこは杞憂のようで一安心した。
部屋は広くはないが、白地にネモフィラ模様の壁紙が日差しを反射して明るく感じた。家具も曲線美が柔らかく、落ち着いて過ごせそうな場所だった。
「装飾がとても可愛らしいですね!」
ディアナが爛々と瞳を輝かせて言うと、侍女長の顔がみるみる曇っていく。
何か不味いことでも言ったのかしらと首を傾げると、
「えぇ……。実は……こちらの部屋は、元はベビールームだったのです」
侍女長は申し訳なさそうに白状した。
「べっ……!?」
「こちらの壁紙も、旦那様が生まれた頃のままでして……」
「そ、そう……。物持ちのよろしいこと……」
「申し訳ございません!!」
ディアナの苦々しい表情を見て、侍女長は罪悪感を抑えきれずに深く頭を垂れた。
「本来なら、若奥様は伯爵夫人専用のお部屋があるのですが……。皆様、今の部屋を離れたくないと頑なに譲らず……」
「あぁ〜、なるほど。それで、私の部屋はこの屋敷の女性陣の中で一番粗末な場所なわけね」
おそらく、伯爵夫人の寝室は前伯爵の第一夫人あたりが使っているのだろう。それから序列順に部屋のランクが下がり、ディアナはベビールームだ。
「で、ですが、元は旦那様がお使いになっていた部屋ですので、頑丈で素材も上等ですので! 日当たりも良いですし」
「ふふっ。そんなに謝らなくてもいいわ。私はこの屋敷で新人ですもの。ここから這い上がってみせますか〜、なんてね」
平謝りする侍女長があまりにも不憫で、ディアナは冗談を交えてケラケラと笑ってみせた。
彼女の様子から察するに、日頃から義母や愛人たちに苦労させられているのだろう。新しい女主人として、被雇用者の労働環境をこれから整えなければならないと思った。
「旦那様は、愛人たちを正式に第二夫人と第三夫人になさるおつもりかしら?」
「えぇ……。旦那様は、正妻を娶ったらすぐに手続きするをとおっしゃっておりました。ただ、順番をどうするかでローゼ様とシャルロッテ様が揉めておりまして、しばらくは籍を入れないと思われます」
「なるほど」
「しかし、お二人とも身分は低いので、若奥様の地位を脅かすことはないと思いますので!」
少し思案している若奥様を、悲しんでいる様子だと勘違いした侍女長は励ますように声を張り上げた。
「あぁ、私は大丈夫よ」
ディアナは彼女を安心させるようにあっけらかんと言った。
「それより、旦那様のことを聞きたいわ。愛人とは長いの?」
「そうですね、もう三年以上はお付き合いをしておられるようです。屋敷にいらっしゃったのは、二人とも一年ほど前ですが」
「さっきの様子だと、旦那様は愛人がいることを当たり前だと思っているのよね?」
「はい……。大旦那様が第三夫人まで娶っていらしたので、昔から複数の女性と同時進行で交際するのは当然のことだと思っておられたようです」
クズだな、とディアナは思った。
「……なんとなく理解したわ。教えてくれてありがとう。これからよろしくね」
侍女長を下がらせ、ディアナは今後の振る舞いについて考えた。
まず、義母たちはなんとかして領地へ引っ越してもらうように誘導する。
そして、愛人二人と手を切るように旦那様を説得する。
その際に、この屋敷は非常識だと理解してもらう。
これらをクリアすれば、屋敷の治安も穏やかな結婚生活も守られるだろうと思った。
しかし、彼女の甘い考えは、その日の夜に打ち砕かれることになる。