クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
二話 フライトと札幌の夜
ブリーフィングの後、高月機長と共に搭乗ゲートから機体へと続く連絡通路――ボーディングブリッジまで行くと、まだシップ(飛行機)は到着しておらず、そこで九名のCA(客室乗務員)たちを交えた全体ブリーフィングが始まった。羽田発福岡行きのスカイクレスト航空の朝一の便、「SKC111便」に搭乗するフライトクルーは私を含めて全部で十一名だ。
フライトプランの説明は副操縦士の私の役目で、高月キャプテンがそれを補足する。
私は手元のタブレットに視線を落とし、皆に向かって口を開いた。
「本日、福岡までのフライトは一時間四十分を予定しています。巡航高度は40,000フィート(12,000m)です。離陸後十五分でベルト着用サインを消灯できる見込みですが、降下を開始する大分付近で強い揺れが予想されます。降下開始の二十五分前にはベルトサインを点灯します。また現在、福岡空港は強い横風が吹いています。状況によっては着陸をやり直すゴーアラウンドや、北九州空港へのダイバードの可能性があります。予報よりも早く揺れ始める可能性が高いため、早めのキャビンチェック(客室安全確認)をお願いします」
一通りの説明を終えると、チーフパーサーの宮本さんが鋭い視線を向けて来た。
「大分付近の揺れですが、サービスを完全に中断してカートを収容するレベルですか? それとも、温かいお飲み物の提供だけを控えるレベルでしょうか?」
「そうですね。安全を優先し、大分に入る五分前にはカートを収容していただくのが望ましいです。お客様の安全はもちろん、皆さんの怪我も防ぎたいので、早めの判断をお願いします」
私の発言を聞くとなぎさの隣に立っていた若林という新人のCAが口を開いた。
「でも、福岡便はビジネスのお客様が多くて、コーヒー提供を楽しみになさっている方も多いんですよ。サービスの時間を削られたらクレームにつながるかもしれません。クレーム対応するのは私たちCAなんですよ」
「お気持ちはわかりますが、天候を無視してサービスを強行することはできません。ご協力をお願いします」
さらに若林さんが不満そうに眉を上げる。
「絶対クレームになりますよ。前回の福岡便でもサービスの時間が短くて、お客様にお叱りを受けたんですから」
食い下がる若林さんに、私は狼狽えることなく、視線を合わせた。感情に流されず、事実を伝えるのがパイロットの責任だ。
すると、私の隣に立つ高月キャプテンから有無を言わせない低い声が響いた。
「安全が優先だ。万が一、コーヒー提供中に揺れて、お客様に火傷させる事態になったら君は責任が取れるのか?」
「それは……」
キャプテンの鋭い眼光に、若林さんが息を飲み、力なく俯いた。
なぎさが慰めるようにポンポンと若林さんの肩を叩き、「高月キャプテンの言う通りだよ。安全第一。ねえ、チーフ」と、宮本さんに視線を送った。
宮本さんはなぎさに同意するように頷き、CAたちに話しかける。
「皆さん、高月キャプテンのおっしゃった通り、安全優先です。いつも以上に手早く動いて下さい」
9名のCAたちから「はい」という声があがった。
「それでは、本日のフライトよろしくお願いいたします」
私は皆さんに向かって深くお辞儀をした。
フライトプランの説明は副操縦士の私の役目で、高月キャプテンがそれを補足する。
私は手元のタブレットに視線を落とし、皆に向かって口を開いた。
「本日、福岡までのフライトは一時間四十分を予定しています。巡航高度は40,000フィート(12,000m)です。離陸後十五分でベルト着用サインを消灯できる見込みですが、降下を開始する大分付近で強い揺れが予想されます。降下開始の二十五分前にはベルトサインを点灯します。また現在、福岡空港は強い横風が吹いています。状況によっては着陸をやり直すゴーアラウンドや、北九州空港へのダイバードの可能性があります。予報よりも早く揺れ始める可能性が高いため、早めのキャビンチェック(客室安全確認)をお願いします」
一通りの説明を終えると、チーフパーサーの宮本さんが鋭い視線を向けて来た。
「大分付近の揺れですが、サービスを完全に中断してカートを収容するレベルですか? それとも、温かいお飲み物の提供だけを控えるレベルでしょうか?」
「そうですね。安全を優先し、大分に入る五分前にはカートを収容していただくのが望ましいです。お客様の安全はもちろん、皆さんの怪我も防ぎたいので、早めの判断をお願いします」
私の発言を聞くとなぎさの隣に立っていた若林という新人のCAが口を開いた。
「でも、福岡便はビジネスのお客様が多くて、コーヒー提供を楽しみになさっている方も多いんですよ。サービスの時間を削られたらクレームにつながるかもしれません。クレーム対応するのは私たちCAなんですよ」
「お気持ちはわかりますが、天候を無視してサービスを強行することはできません。ご協力をお願いします」
さらに若林さんが不満そうに眉を上げる。
「絶対クレームになりますよ。前回の福岡便でもサービスの時間が短くて、お客様にお叱りを受けたんですから」
食い下がる若林さんに、私は狼狽えることなく、視線を合わせた。感情に流されず、事実を伝えるのがパイロットの責任だ。
すると、私の隣に立つ高月キャプテンから有無を言わせない低い声が響いた。
「安全が優先だ。万が一、コーヒー提供中に揺れて、お客様に火傷させる事態になったら君は責任が取れるのか?」
「それは……」
キャプテンの鋭い眼光に、若林さんが息を飲み、力なく俯いた。
なぎさが慰めるようにポンポンと若林さんの肩を叩き、「高月キャプテンの言う通りだよ。安全第一。ねえ、チーフ」と、宮本さんに視線を送った。
宮本さんはなぎさに同意するように頷き、CAたちに話しかける。
「皆さん、高月キャプテンのおっしゃった通り、安全優先です。いつも以上に手早く動いて下さい」
9名のCAたちから「はい」という声があがった。
「それでは、本日のフライトよろしくお願いいたします」
私は皆さんに向かって深くお辞儀をした。