クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「チェックリスト・コンプリート」
 そう告げると、高月キャプテンが短く頷いた。私は無線スイッチを押し、グランド(地上管制)へ呼びかけた。
「ハネダグランド、SKC(スカイクレスト)111。プッシュバックの許可を要請します」
 プッシュバックとは、自力でバックできない飛行機を、専用の牽引車で誘導路まで押し出してもらうことだ。
『SKC111。ハネダグランド。プッシュバック許可します』

 管制官の指示を復唱し、高月キャプテンに報告すると、「了解」と返ってくる。
 787の巨大なフロントウィンドウの向こうではオレンジ色のベストを着た地上係員が私たちの機体とトーイングカーを繋ぐ最終確認を終えて離れていくのが見えた。

「パーキングブレーキ、リリース」
 高月キャプテンの合図で私は中央コンソールのブレーキレバーを押し下げた。
 わずかな振動と共に巨大な787の機体がトーイングカーに押し出され、ゆっくりと後ろ向きに動き始める。

 朝日に照らされたサングラス姿の高月キャプテンの表情には先程の柔らかな笑みはなく、三百人の命を預かる責任者の顔になっていた。
 私も離陸に向けて緊張感が高まっていく。そして機体が誘導路の中央で静止し、トーイングカーが切り離される小さな衝撃がコックピットに伝わった。
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