クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
 翌日のコンディションは最悪だった。
 午前中のフライトシミュレーター訓練では全く集中できず、墜落するというパイロットとして最低の結果を出した。
 これではダメだと激しい自己嫌悪に陥りながら、広報部に向かうと、白鳥綾音が待っていた。PR用に女性パイロットのインタビューをさせて欲しいと事前に頼まれていたからだった。

「南雲さん、お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」
 綾音に会議室に案内され、テーブルを挟んで、彼女と向かい合った。
 今日の彼女は女性らしいピンク色のワンピース姿で、非の打ち所がない程よく似合っていた。パイロットの制服姿の自分と見比べて、女性として完全に負けていると感じる。
 悔しいけど、やはり隼人さんの隣には綾音のような華やかな容姿の女性が相応しい。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。カメラマンの方はいないんですか?」
 会議室には二人きりで、それが妙に不自然に思えた。
「実は今日お呼びしたのは、取材とは別件で」
 そう言って、綾音はテーブルの上にA4サイズの茶封筒を置いた。
「匿名で、私の所に送られて来たんですけど……説明していただけますか?」
 美しい眉を僅かに険しくさせた綾音が、スッと私の方に封筒を押しやった。
 嫌な予感に心臓を掴まれながら、封筒を開けると、中から紛失したはずの隼人さんとの契約書が出て来て、一気に血の気が引く。

「……どうしてここに。これは空き巣に入られた時に盗まれたもので」
「経緯なんてどうでもいいわ。それより、この契約書の内容が事実なら、南雲さんも、高月キャプテンもただではすみませんよ。南雲さん、お聞きしますが、高月キャプテンから三百万円をもらって、『契約恋人』を演じているのは本当?」
 厳しい口調で問い詰められ、言葉に詰まる。
「南雲さん、答えて」
「それは……」
 認めてしまえば私だけではなく、隼人さんのパイロット人生や、彼の立場にまで何らかのペナルティがあるかもしれない。
 パイロットの副業は禁止という規則を知りながら、私を雇ったのだから、隼人さんもきっと懲罰の対象だ。だから、絶対に認めるわけにはいかない。
< 120 / 143 >

この作品をシェア

pagetop