クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
 窓の向こうの、遠くに見える滑走路からB787が離陸するのを見て、隼人さんの姿が浮かぶ。確か今日は福岡へのフライトが入っていた。
 無意識にそんなことを思った自分に呆れる。私の心は今も隼人さんでいっぱいだ。だから、水沢さんの気持ちに応えられない。

「……ごめんなさい。水沢さんは私にはもったいない素敵な方だと思いますが、誰ともつき合う気はないので」
 それが今の私の率直な気持ちだった。
 水沢さんはがっかりしたように肩を落とした。眼鏡の奥の瞳には隠し切れない落胆が見えた。
「……そうですか。やっぱり、そうですよね」
 水沢さんは自嘲気味に微笑むと、ぎゅっと握りしめていた湯呑みから、ゆっくりと手を離した。
「すみません。困らせるようなことを言って。でも、高月キャプテンと別れたと聞いて、どうしても諦めきれなくて。今日、南雲さんがスタンバイだって知って、勝手にチャンスだと思いました。あっ、お料理が来ましたね」
 水沢さんが店員に視線を向ける。
 運ばれて来た日替わり御膳がテーブルに並び、私たちは「いただきます」と小さく声を掛けてから、箸を動かした。
 先ほどまでの緊迫した空気はなくなったが、何となく水沢さんと顔を合わせているのが気まずい。きっと水沢さんは私以上に居心地が悪いだろう。
「なんか、気まずいですね。でも、いい思い出になったな。南雲さんとこうして二人だけで食事が出来たんだから」
 無理に明るく振る舞おうとする水沢さんが本当にいい人だと思った。
「……なんか、すみません」
「南雲さん、謝らないで下さい。僕はこれでも気持ちを伝えられてスッキリしたんですよ。やっぱり気持ちはちゃんと口にした方がいいですね」
 水沢さんの言葉が胸に響く。
 思えば私は隼人さんに何も伝えていなかった。五年前、フロリダで助けてもらったことも。せめて、あの時のお礼だけでも伝えたい。
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