クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「コーヒーをお持ちしました」
宮本さんがトレイを持ってコックピットに入ってくる。
「ありがとう」
コーヒーを受け取ったキャプテンが左サイドのカップ専用ホルダーにコーヒーを置くのを見てから、私も宮本さんからコーヒーを受け取り、右サイドの専用ホルダーにコーヒーを収めた。
「キャビンの様子に異常はないか?」
前を向いたまま高月キャプテンが宮本さんに聞いた。
「問題ございません。それから若林が機内アナウンスありがとうございましたと言っておりました」
「そうか」
高月キャプテンの言葉を聞くと、宮本さんは「失礼しました」と言って、下がって行った。コックピット内にはコーヒーの香ばしい香りが漂い、ひと時の平穏な時間を感じる。
「俺が初めて空を飛んだ時は、教官が意識を失って、初飛行がソロフライトになったよ」
さらりと高月キャプテンから、信じられない言葉が出て来て、両目を見開いた。
「えっ、初飛行で教官が意識を失ったんですか!」
思わず声が大きくなり、高月キャプテンが耳のヘッドセットをわずかにずらす。
「あ、すみません。びっくりして。それでどうなったんですか?」
「無事に着陸出来たからここにいる」
クスッと高月キャプテンが笑った。
「そうですね。でも、どうやって着陸したんですか?」
「その時の管制官が飛行経験のあるベテラン管制官で、俺を上手く導いてくれたんだ。着陸後、教官はすぐに救急車で運ばれて、命は助かったよ」
「良かったですね」
「あの時は心から神に感謝したよ。あの管制官じゃなかったら、俺は今頃、死んでいたかもしれない」
その気持ちすごくわかる。私もソロフライトの時、無線で救われた。
多分、私を救ってくれたのは高月キャプテンだ。でも、高月キャプテンは覚えているだろうか? 私にとっては一生忘れられないエピソードだけど、高月キャプテンにとっては大した話ではないかもしれない。