クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「せっかくチーフがご飯誘ったのに、『フライトの振り返りをしたいから』って、嘘に決まってますよね。キャプテンが断ったから自分もレベルを合わせたいだけでしょ」
 非常に出て行きづらい場面だ。胸の奥がチクチクと痛む。

「今朝のブリーフィングだって、高月キャプテンの隣で正論ばっかり並べちゃって。結局、パイロットっていう特権階級だから、私たちと群れるのは時間の無駄だって思ってるんですよ。あの余裕ぶった『お断りします』って笑顔、鼻につきません?」

 全くそんなつもりはなく、夕飯を断ったのは、本当に復習がしたかったのと、実家への仕送りと妹の大学の学費で私のお給料の半分以上が消える為、一円でも節約したかったからだ。
 不意に制服のポケットの中のスマホが震え、薬学部五年生の妹の菜々美からメッセージが届く。

【学費の振り込み、今月末だけど大丈夫そう?】
 そのメッセージを見てため息が漏れる。
【大丈夫だよ。お姉ちゃんに任せて】
 三ヶ月間の移行訓練中はフライト手当が出なかったので、貯金はもう底をつきそうだけど、そう返した。実家で心臓の手術を受けたばかりの母の世話をしてくれている菜々美に余計な心配をかけたくなかった。
 すぐに菜々美から【ありがとう】と、お辞儀するネコのキャラクターのスタンプが返って来た。

「……何とかしなきゃな」
 スマホを制服のポケットに仕舞い、深く呼吸をしてから、ロビーにいる若林さんに気づかれないようにフロントに向かった。
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