クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
『それで水沢さんに送ってもらって、どうなったの?』
スマホからなぎさの好奇心に満ちた声が響く。
昨日、水沢さんと私が駐車場に向かって歩く姿を見たらしく、気になって電話して来たようだった。
「どうって、アパートの近くまで送ってもらったよ」
『一緒にご飯食べたりとかしなかったの?』
「うん。ないけど」
なぎさが盛大なため息をつく。
『なんで発展させないのよ。せっかくの機会なのに! 水沢さん、独身で仕事できるし、女性社員からの人気もあるんだよ』
水沢さんは物腰が柔らかく紳士的だからやっぱりモテるよね。でも、発展させるってどいう意味?
「何を発展させるの?」
『恋愛に決まっているでしょ!』
手が滑った。ゴトンと音を立てて、マグカップがテーブルの上で転がる。幸い、中身は空だった。
「変な事言わないでよ。びっくりするじゃない」
慌ててカップを立て直すと、『瑞希は恋愛に奥手過ぎるの』という言葉が返ってくる。
「だって、そんな余裕ないし」
『そんなこと言っていたら大きなチャンスを逃すのよ。これだと思ったら自分から掴みにいかなきゃ』
「……大きなチャンスね」
ため息が零れた。
私の運は数百倍の倍率を潜り抜けて自社養成パイロットになれたことで全部使い果たした気がする。
『水沢さんと一度、ご飯行ってきなよ』
「そんな贅沢できない。知ってるでしょ? 私は貧乏副操縦士だって」
そう口にしながら、なぜか札幌の夜、私を助けてくれた高月キャプテンの姿が浮かび、慌てて頭を振った。
『ご飯くらい行けるでしょう。コーパイは高給取りなんだから』
「ムリムリ。妹の学費を払わなきゃいけないから」
スマホ越しになぎさが小さく息をついた。
『瑞希、副業はしていないよね?』
心臓がキュッと縮み、背筋が冷たくなる。
「……もちろん。するわけないじゃん。空が飛べなくなったら、お給料減るし」
『ならいいけど。絶対にダメよ。せっかく移行訓練が終わったんだから、身を滅ぼすようなことはしないでね』
「わかっているよ」
そう答えた時、スマホが振動し、画面に【運航管理部】の文字が表示される。
「ごめん。会社から。切るね」
なぎさとの通話を終了させ、会社からの電話に出ると、欠員補充の呼び出しだった。19時30分羽田発、ロサンゼルス行きで、長距離の手当が付くと思ったが、ペアを組むのが高月キャプテンと聞いて、血の気が引く。今一番顔を合わせたくない相手だ。しかも太平洋を越える十時間以上のロングフライト。密室のようなコックピットで一緒だと思うと、胃がキリキリと痛くなる。やっぱり私の運はパイロットになった時に全部使ったのかもしれない。
スマホからなぎさの好奇心に満ちた声が響く。
昨日、水沢さんと私が駐車場に向かって歩く姿を見たらしく、気になって電話して来たようだった。
「どうって、アパートの近くまで送ってもらったよ」
『一緒にご飯食べたりとかしなかったの?』
「うん。ないけど」
なぎさが盛大なため息をつく。
『なんで発展させないのよ。せっかくの機会なのに! 水沢さん、独身で仕事できるし、女性社員からの人気もあるんだよ』
水沢さんは物腰が柔らかく紳士的だからやっぱりモテるよね。でも、発展させるってどいう意味?
「何を発展させるの?」
『恋愛に決まっているでしょ!』
手が滑った。ゴトンと音を立てて、マグカップがテーブルの上で転がる。幸い、中身は空だった。
「変な事言わないでよ。びっくりするじゃない」
慌ててカップを立て直すと、『瑞希は恋愛に奥手過ぎるの』という言葉が返ってくる。
「だって、そんな余裕ないし」
『そんなこと言っていたら大きなチャンスを逃すのよ。これだと思ったら自分から掴みにいかなきゃ』
「……大きなチャンスね」
ため息が零れた。
私の運は数百倍の倍率を潜り抜けて自社養成パイロットになれたことで全部使い果たした気がする。
『水沢さんと一度、ご飯行ってきなよ』
「そんな贅沢できない。知ってるでしょ? 私は貧乏副操縦士だって」
そう口にしながら、なぜか札幌の夜、私を助けてくれた高月キャプテンの姿が浮かび、慌てて頭を振った。
『ご飯くらい行けるでしょう。コーパイは高給取りなんだから』
「ムリムリ。妹の学費を払わなきゃいけないから」
スマホ越しになぎさが小さく息をついた。
『瑞希、副業はしていないよね?』
心臓がキュッと縮み、背筋が冷たくなる。
「……もちろん。するわけないじゃん。空が飛べなくなったら、お給料減るし」
『ならいいけど。絶対にダメよ。せっかく移行訓練が終わったんだから、身を滅ぼすようなことはしないでね』
「わかっているよ」
そう答えた時、スマホが振動し、画面に【運航管理部】の文字が表示される。
「ごめん。会社から。切るね」
なぎさとの通話を終了させ、会社からの電話に出ると、欠員補充の呼び出しだった。19時30分羽田発、ロサンゼルス行きで、長距離の手当が付くと思ったが、ペアを組むのが高月キャプテンと聞いて、血の気が引く。今一番顔を合わせたくない相手だ。しかも太平洋を越える十時間以上のロングフライト。密室のようなコックピットで一緒だと思うと、胃がキリキリと痛くなる。やっぱり私の運はパイロットになった時に全部使ったのかもしれない。