クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
 呼び出しから一時間半後、緊張しながら羽田空港のオペレーションセンターに駆け込んだ。
 更衣室で制服に着替え、鏡の前でネクタイを整えながら、大丈夫、大丈夫と、自分に言い聞かせる。高月キャプテンはクイック・イーツの配達員を女性だとは絶対に思っていないはず。だから大丈夫。鏡の中の自分に向かって大きく頷き、更衣室を出た。

 ショーアップを済ませ、ブリーフィングルームへ入ると、出発準備を整えた二人の機長が待っていた。一人は白髪混じりのベテラン、佐藤キャプテンで、初めて一緒になる。そしてもう一人は氷のように冷たく、厳しい表情を浮かべた高月キャプテン。

「遅くなりました。副操縦士の南雲瑞希、入ります」
 高月キャプテンが鋭い眼光で私を見た。
「遅い。あと五分遅かったら別のスタンバイを呼ぶ所だったぞ」
「すみません。交通機関の影響で……」
 今日に限って電車が遅れ、十五分の遅刻だ。
「まあまあ高月くん。スタンバイからの呼び出しだから仕方ないよ。南雲さん、今日はよろしくね」
 佐藤キャプテンが穏やかな笑みを浮かべ、ピリピリとした空気を和ませてくれた。
「よろしくお願いします」
 それからフライトプランの確認となった。
「今日のLAX(ロサンゼルス国際空港)までの飛行時間は十時間三十分。巡航高度は三万七千フィートから入り、燃料に合わせて四万一千までステップアップする」
 高月キャプテンの澱みのない説明に私は相槌を打った。
「レスト(休憩)はどうしますか?」
 長距離便の場合はパイロットは順番に休憩を取らなければいけない。
「離陸後、まず南雲が休憩だ。次は佐藤キャプテンで、最後は俺が取ろうと思っている」
 その順番だと、深夜から明け方にかけての時間帯に高月キャプテンと二人きりになる。おそらく佐藤キャプテンへの気遣いからだと思うが、クイック・イーツの件を問い詰める為に誰にも邪魔されない時間帯を私に割り当てた気もする。
「僕は大丈夫ですよ」
 佐藤キャプテンが穏やかな笑みを浮かべた。
「……私も大丈夫です」
 反対する理由が見当たらず、同意するしかなかった。
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