クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「足りなかったか?」

 私はブンブンと頭を左右に振った。

「……多いです。そんなに大金を積むんだったら、私じゃなくて、専門の人に頼んだ方がいいのでは?」
「南雲じゃなきゃダメなんだ」

 高月キャプテンが真剣な表情を浮かべた。真っすぐに私を見つめる漆黒の瞳は心からそう言っているようだった。

「……どうして」

 掠れた声で呟くと、高月キャプテンは柔らかな瞳を浮かべた。

「南雲は俺に媚びを売らないから信用できる。それにコーパイとしても優秀だ。コックピットで過ごして、俺は南雲になら命を預けられると思ったよ」

 パイロットとして高く評価してくれるのは嬉しいけど、恋人役だなんて私に務まるだろうか。

「そう言われましても、私が適任だとは思えません。私は見ての通り、女性らしくないし、綾音さんの方が魅力的です。それに私、恋愛経験ほとんどありません。最初で最後の彼氏がいたのは大学生の時なんですから」

 なぜかキャプテンが嬉しそうに微笑んだ。
「つまり、水沢とは恋人ではないってことだよな?」
 水沢さんの名前に両目を大きく見開く。
「当たり前です! 水沢さんとはそのような関係ではありません!」
「そうか。それなら俺の恋人役を断る理由はないな」
「まだ引き受けるって言ってませんよ」
「断るのか? 南雲にとって悪い話ではないと思うが。妹さんの学費、今月末に払わないといけないんだろう? それに副業のことも黙ってて欲しいだろ?」

 完全に足元を見られている。卑怯だ。汚い。そう罵りたかったけど、家族の為にも、自分の為にもパイロットの仕事を手放す訳にはいかない。
< 44 / 143 >

この作品をシェア

pagetop