クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
***
川崎のマンションでクイック・イーツの配達員を見かけた時、直感的に南雲だと確信した。決定的だったのは、去り際の「失礼します」という声だ。男性を装った低い声だったが、コックピットで何時間も聞き続けた彼女の声を聞き間違えるはずがなかった。そして、俺の顔を見るなり一目散に逃げ出したあの動揺ぶりが、彼女の正体を雄弁に物語っていた。
生真面目な南雲が副業禁止の規則を破ってまで、クイック・イーツの配達員をする理由が気になり、俺は一度閉めたドアを再び開け、部屋の主である佐久間に告げた。
「追加の調査を頼みたい」
佐久間はニッと笑みを浮かべた。
彼は大学時代の友人で、探偵業をしていて、信頼できる奴だった。
「ご依頼大歓迎。どんな調査だ?」
「南雲瑞希について調べて欲しい」
俺はソファに腰かけながら、そう口にした。
五日後、佐久間から調査報告書が送られて来た。そこには彼女が背負っている過酷な現実が綴られていた。心臓を患う母、大学生の妹、そして家出中の父。給料のほとんどを家族への仕送りに充てているという事実を知り、彼女が副業に手を出す理由がわかった。
父親の代わりに家族を支える南雲に同情したが、見逃す訳にもいかない。
俺以外の人間に見つかったら、南雲は空を飛べなくなり、家族を支えるのが今以上に厳しくなるだろう。南雲をさらに苦しい境遇には追い込みたくない。だから、南雲と話し合う必要があると思った。
そんな時、羽田空港の駐車場で彼女を見かけた。隣にはディスパッチャーの水沢がいて、普段の無表情からは想像もつかないほど柔らかな笑みを南雲に向けていて驚いた。そして南雲も俺の前では見せない気さくな表情で水沢に応えていた。そんな二人を見て、胸の奥がチクリと疼いた。
彼女が水沢の車に乗って空港を去っていく姿を見送った時、自分でも驚くほどの落胆を覚えた。女性に対してこれほどまでに焦燥感を抱くのは初めてだった。
翌日の南雲とのフライトは、正直言って苦痛だった。隣に座る彼女を見る度に水沢に向けていた気さくな表情が過ったからだ。
「水沢とは親しいのか?」
聞くべきはクイック・イーツのことなのに、気づけば水沢のことを質問していた。彼女は否定したが、その言葉を鵜呑みにできるほど俺の心は広くなかった。
川崎のマンションでクイック・イーツの配達員を見かけた時、直感的に南雲だと確信した。決定的だったのは、去り際の「失礼します」という声だ。男性を装った低い声だったが、コックピットで何時間も聞き続けた彼女の声を聞き間違えるはずがなかった。そして、俺の顔を見るなり一目散に逃げ出したあの動揺ぶりが、彼女の正体を雄弁に物語っていた。
生真面目な南雲が副業禁止の規則を破ってまで、クイック・イーツの配達員をする理由が気になり、俺は一度閉めたドアを再び開け、部屋の主である佐久間に告げた。
「追加の調査を頼みたい」
佐久間はニッと笑みを浮かべた。
彼は大学時代の友人で、探偵業をしていて、信頼できる奴だった。
「ご依頼大歓迎。どんな調査だ?」
「南雲瑞希について調べて欲しい」
俺はソファに腰かけながら、そう口にした。
五日後、佐久間から調査報告書が送られて来た。そこには彼女が背負っている過酷な現実が綴られていた。心臓を患う母、大学生の妹、そして家出中の父。給料のほとんどを家族への仕送りに充てているという事実を知り、彼女が副業に手を出す理由がわかった。
父親の代わりに家族を支える南雲に同情したが、見逃す訳にもいかない。
俺以外の人間に見つかったら、南雲は空を飛べなくなり、家族を支えるのが今以上に厳しくなるだろう。南雲をさらに苦しい境遇には追い込みたくない。だから、南雲と話し合う必要があると思った。
そんな時、羽田空港の駐車場で彼女を見かけた。隣にはディスパッチャーの水沢がいて、普段の無表情からは想像もつかないほど柔らかな笑みを南雲に向けていて驚いた。そして南雲も俺の前では見せない気さくな表情で水沢に応えていた。そんな二人を見て、胸の奥がチクリと疼いた。
彼女が水沢の車に乗って空港を去っていく姿を見送った時、自分でも驚くほどの落胆を覚えた。女性に対してこれほどまでに焦燥感を抱くのは初めてだった。
翌日の南雲とのフライトは、正直言って苦痛だった。隣に座る彼女を見る度に水沢に向けていた気さくな表情が過ったからだ。
「水沢とは親しいのか?」
聞くべきはクイック・イーツのことなのに、気づけば水沢のことを質問していた。彼女は否定したが、その言葉を鵜呑みにできるほど俺の心は広くなかった。