クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「ありがとうございます。いただきます」

 まずは真鯛のカルパッチョを頂く。透きとおるほど薄い真鯛の身が、白いお皿の上で大輪の華のように並んでいる。その上には絞りたてのレモンとオリーブオイルがかけられ、仕上げに散らされたディルの深い緑が色彩を添えている。

 フォークで一切れ口に運ぶと、ひんやりとした真鯛の弾力とともに爽やかな酸味を感じる。昨日のロングフライトの疲れが吹き飛ぶようだった。

「美味しいです! この鯛、すごく新鮮ですね」
「今朝、馴染みの店から取り寄せたんだ。熱いうちにパスタも食べてくれ」
「はい」

 隼人さんに促され、主役の雲丹のクリームパスタへとフォークを伸ばす。黄金色に輝くソースを纏ったパスタの上には、形が崩れていない立派な生ウニが、贅沢なほどトッピングされていた。口に入れると、濃厚なウニの甘みが舌の上でとろけ、生クリームのまろやかさと、ニンニクと醤油の香ばしさが追いかけてくる。

「……めちゃくちゃ美味しい!」
 家庭料理のレベルを超える美味しさに夢中になる。
「お店開けますよ!」
 隼人さんが笑みを浮かべる。
「そんなに美味いか?」
「はい!」
「これで瑞希の胃袋は掴めたようだな」
 そう言って意味ありげに微笑む隼人さんを見て、もしかしてこれは私をコントロールする為の甘い罠なのではないかと思った。
「私の胃袋を掴んで、どうする気ですか?」
「どうすると思う?」
 正面から見つめ返す隼人さんの腹の内が見えず、鼓動が速くなる。
「言っておきますけど、契約恋人にはなりますけど、契約結婚はお断りですからね!」
 広い部屋に私の叫び声が響く。
 隼人さんはフッと口元を緩め、「契約結婚か。それは考えていなかったな」と笑った。私一人で先走ったようで恥ずかしい。
 顔を赤らめながら私は食事を続けた。
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