クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「キャプテン、水沢さんに失礼なこと言わないで下さい」
「水沢くんと南雲、お似合いだと思うけどな。ねえ、水沢くん」
今岡キャプテンが水沢さんを見ると、いつも無表情な水沢さんが困ったように視線を泳がせ、耳の付け根を僅かに赤くさせる。不愉快な思いをさせてしまったんだろうか。
「な、南雲さんに失礼ですよ。そんなことより、僕の作成したフライトプランのことで質問があるのでは?」
「そうだった。南雲。肉食えよ。じゃあな」
「あ、はい。キャプテンもお気をつけて」
「南雲さん」
立ち去ろうとした水沢さんが足を止め、眼鏡越しの瞳をじっと向けてくる。何を言われるのかと身構えていたら、水沢さんは少しだけ眉を下げ、「福岡は天気が悪いので、気をつけて下さい」と心配そうに口にした。
「ありがとうございます。気をつけます」
「では、失礼します」
短く会釈して、再び歩き出した水沢さんのグレーのスーツの後ろ姿を見ながら、いつも優しい言葉をかけてくれる人だと思った。
それにしても、水沢さんとお似合いだと言われるとは思わなかった。いつもの今岡キャプテンのジョークだと思うが、全く女性らしくない私なんかを勧められて、水沢さんに何だか申し訳ない気がしてくる。
スカートなんて滅多にはかないし、同期のパイロット仲間からは、南雲って女性だったんだよなと言われるほどで、男性に囲まれて仕事をしているが、恋人はいないし、そんな気配もない。大学生の時につき合った彼はいたが、その恋も半年で終わった。
つくづく恋愛とは程遠い生活をしていると思いながら、モニター画面で、飛行ルートや機体の状態、福岡の天気を確認すると、水沢さんが言った通り福岡の天気は下り坂で、到着する頃には悪天候に見舞われそうだ。ダイバード(代替空港)の天気も確認しておいた方がいいかもしれない。
あれこれと不測の事態に備えて情報を収集し始めてから三十分経った時、ブリーフィングルームが不自然にざわついた。
「おはようございます! 広報の白鳥です。今日はスカイクレスト航空公式チャンネルの突撃取材で伺いました!」
カメラマンを連れた白鳥綾音が、制限区域内であるブリーフィングルームに入り込んで来て、いきなり撮影を始めた。社内一の美女と言われるだけあってライトに照らされた彼女は華やかで美しいが、ここがどういう場所かわかっているんだろうか。
あろうことか出発を控えたパイロットたちに彼女がマイクを向け始めたのを見て、息を呑んだ。一分一秒を争う気象情報の確認や、緻密な計算が必要な燃料計画をしなければいけないのに、パイロットたちの時間を奪うような真似をすれば、安全運航に支障が出るかもしれない。
誰かが止めないと――。
そう危惧した瞬間、低く、空気を切り裂くような声がした。
「おい。撮影許可は出ているのか?」
男性の声を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
この声――。
『大丈夫だ。君ならできる』
耳の奥底に残る五年前のあの時の声と重なる。
「水沢くんと南雲、お似合いだと思うけどな。ねえ、水沢くん」
今岡キャプテンが水沢さんを見ると、いつも無表情な水沢さんが困ったように視線を泳がせ、耳の付け根を僅かに赤くさせる。不愉快な思いをさせてしまったんだろうか。
「な、南雲さんに失礼ですよ。そんなことより、僕の作成したフライトプランのことで質問があるのでは?」
「そうだった。南雲。肉食えよ。じゃあな」
「あ、はい。キャプテンもお気をつけて」
「南雲さん」
立ち去ろうとした水沢さんが足を止め、眼鏡越しの瞳をじっと向けてくる。何を言われるのかと身構えていたら、水沢さんは少しだけ眉を下げ、「福岡は天気が悪いので、気をつけて下さい」と心配そうに口にした。
「ありがとうございます。気をつけます」
「では、失礼します」
短く会釈して、再び歩き出した水沢さんのグレーのスーツの後ろ姿を見ながら、いつも優しい言葉をかけてくれる人だと思った。
それにしても、水沢さんとお似合いだと言われるとは思わなかった。いつもの今岡キャプテンのジョークだと思うが、全く女性らしくない私なんかを勧められて、水沢さんに何だか申し訳ない気がしてくる。
スカートなんて滅多にはかないし、同期のパイロット仲間からは、南雲って女性だったんだよなと言われるほどで、男性に囲まれて仕事をしているが、恋人はいないし、そんな気配もない。大学生の時につき合った彼はいたが、その恋も半年で終わった。
つくづく恋愛とは程遠い生活をしていると思いながら、モニター画面で、飛行ルートや機体の状態、福岡の天気を確認すると、水沢さんが言った通り福岡の天気は下り坂で、到着する頃には悪天候に見舞われそうだ。ダイバード(代替空港)の天気も確認しておいた方がいいかもしれない。
あれこれと不測の事態に備えて情報を収集し始めてから三十分経った時、ブリーフィングルームが不自然にざわついた。
「おはようございます! 広報の白鳥です。今日はスカイクレスト航空公式チャンネルの突撃取材で伺いました!」
カメラマンを連れた白鳥綾音が、制限区域内であるブリーフィングルームに入り込んで来て、いきなり撮影を始めた。社内一の美女と言われるだけあってライトに照らされた彼女は華やかで美しいが、ここがどういう場所かわかっているんだろうか。
あろうことか出発を控えたパイロットたちに彼女がマイクを向け始めたのを見て、息を呑んだ。一分一秒を争う気象情報の確認や、緻密な計算が必要な燃料計画をしなければいけないのに、パイロットたちの時間を奪うような真似をすれば、安全運航に支障が出るかもしれない。
誰かが止めないと――。
そう危惧した瞬間、低く、空気を切り裂くような声がした。
「おい。撮影許可は出ているのか?」
男性の声を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
この声――。
『大丈夫だ。君ならできる』
耳の奥底に残る五年前のあの時の声と重なる。