クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「南雲さん、隼人に愛されて良かったわね」
 綾音が笑みを浮かべるが、目は笑っていない。
「隼人、七月の創立記念パーティーのパートナーは南雲さんを連れてくるのか?」
 副社長が隼人さんに聞いた。
「もちろん、そのつもりです」
「そうか。ミスター・スターリングも隼人が来るなら喜ぶ」
 ロスで会ったミスター・スターリングのことだと思った。

 スカイクレスト航空を買収し、会社をバラバラに切り売りしようとしている投資家だと思うと、名前を聞いただけで不愉快になるが、隼人さんの恋人としてにこやかな表情を努めた。

「樹の意志を継ぐのは隼人だと信じているぞ」
 副社長がポンポンと隼人さんの肩を叩く。その瞬間、隼人さんの表情が石のように硬直した。きっと勝手な副社長の言葉に怒りを感じているんだ。
「じゃあな、隼人。パーティーを楽しみにしているよ」
 副社長と綾音が満足げな笑みを浮かべて立ち去った。
 隼人さんは険しい表情で副社長の背中を見つめたまま、微動だにしない。

「……隼人さん」
 心配でそっと顔を覗き込むと、ハッとしたように私を見た。その瞳には行き場のない怒りと、深い悲しみが混ざり合っているようだった。
「……すまない」
 掠れた声で口にすると、隼人さんの腕がすっと私の肩から離れる。
「買収が兄さんの意志だなんて絶対にありえない。兄さんはスカイクレスト航空で働く人たちをとても大切に思っていたんだ」
 握りしめられた隼人さんの拳が小刻みに震えていた。
 隼人さんの怒りはわかる。私も勝手に樹さんの名前を出した白鳥副社長が許せない。けれど、今は何とかして隼人さんの強張った心を解きほぐしてあげたい。
 
 私は出来るだけ明るい声を絞り出した。
「ねえ、隼人さん、せっかくだから展望レストランに行きません?」
「え……?」
「博物館のパンフレットに書いてあったんです。成田空港の滑走路が一番綺麗に見えて、ここでしか食べられない特製メニューがあるって。私、すごくお腹すいちゃいました」
 食いしん坊だと思われてもいい。隼人さんの気持ちを少しでも穏やかにしてあげたい。
 隼人さんは虚を突かれたような顔をした後、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「瑞希は本当に飛行機と食べることが好きだな。ロスの時も、滑走路の見えるハンバーガーショップに行きたがった」
「だって、飛行機が飛ぶ瞬間って嫌なことも全部忘れさせてくれるじゃないですか!」
 隼人さんがハッとしたように目を見開いた。
「……そうだな。瑞希の言う通りだ。着替えてから展望レストランに行くか」
 私は大きく頷いた。
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