クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
とにかく一人になれる場所に行きたくて、階段で屋上展望台まで駆け上る。
屋上の重い扉を押し開けると、強い風が髪を乱した。人のいない場所まで歩き、壁の方を向いて、声を押し殺して泣いた。
『自社養成パイロットに選ばれたなんて、瑞希はすごいな! お父さんの誇りだ』
入社が決まった時、父は自分のことように手放しで喜んでくれた。
『体に気をつけてな。立派なパイロットになって帰って来るんだぞ』
フロリダに出発する日、父は空港まで私を送ってくれて、優しく送り出してくれた。あの時の言葉に嘘はなかったと信じていた。
『瑞希がフロリダに旅立った日にお父さんは出て行ったのよ』
帰国後、母からそう告げられた。
それから五年、私は父をずっと探していた。長年勤めていた会社も辞めていて、父が心配だった。何かの事件に巻き込まれているのではないかと思っていた。まさか新しい家族を築いているなんて……。
「うっ……う、ああぁ……っ」
嗚咽が漏れ、膝から崩れ落ちた。
父の無事を願い、必死に父を探していたこの五年間はなんだったのだろう。父は私がフロリダに旅立つ日に、家族を捨てることを決めていたんだ。私と菜々美と母を捨てたんだ。
「『立派なパイロットになって帰って来る』って、何よ! あの日、私を捨てたくせに!」
やりきれない怒りと悲しみが溢れ、拳で硬いアスファルトの床を叩きつける。
いつか私たち家族の元に帰って来てくれると信じていのに。
「……あまりにも酷い……酷すぎる!」
もう一度、拳を振り上げ強い力でアスファルトを叩こうとしたら、誰かが私の手首を掴んだ。
「……パイロットの大切な手だ。大事にしろ」
私を止めたのは息を乱した隼人さんだった。
ぐちゃぐちゃの泣き顔を見られたくなくて、顔を背けて、逃げ出そうとしたら強く抱きしめられた。
目の前には水色のシャツ越しの逞しい胸板があった。熱い体温とホワイトムスクのコロンに交じった隼人さんの香りを感じる。
「離して」
「嫌だ。離さない」
「隼人さんの……高いシャツが汚れます」
「そんなの、また買えばいい。俺が瑞希のハンカチになるから泣け」
なんでそんな優しいことを言うの。本物の恋人じゃないのに。
「……私……ぐちゃぐちゃに泣きますよ。鼻水だってつけちゃうんだから」
「構わない。思い切り泣け」
こんなに優しいことを言われたら抗えない。弱い所は見せたくないのに。
「……うっ、うっ」
隼人さんの胸に顔を埋めると、涙が止まらなくなる。
「大丈夫だ。俺がそばにいる」
泣きじゃくる私の頭を撫でながら、隼人さんは何度もそう言ってくれた。今だけは隼人さんの優しさに縋りたかった。
屋上の重い扉を押し開けると、強い風が髪を乱した。人のいない場所まで歩き、壁の方を向いて、声を押し殺して泣いた。
『自社養成パイロットに選ばれたなんて、瑞希はすごいな! お父さんの誇りだ』
入社が決まった時、父は自分のことように手放しで喜んでくれた。
『体に気をつけてな。立派なパイロットになって帰って来るんだぞ』
フロリダに出発する日、父は空港まで私を送ってくれて、優しく送り出してくれた。あの時の言葉に嘘はなかったと信じていた。
『瑞希がフロリダに旅立った日にお父さんは出て行ったのよ』
帰国後、母からそう告げられた。
それから五年、私は父をずっと探していた。長年勤めていた会社も辞めていて、父が心配だった。何かの事件に巻き込まれているのではないかと思っていた。まさか新しい家族を築いているなんて……。
「うっ……う、ああぁ……っ」
嗚咽が漏れ、膝から崩れ落ちた。
父の無事を願い、必死に父を探していたこの五年間はなんだったのだろう。父は私がフロリダに旅立つ日に、家族を捨てることを決めていたんだ。私と菜々美と母を捨てたんだ。
「『立派なパイロットになって帰って来る』って、何よ! あの日、私を捨てたくせに!」
やりきれない怒りと悲しみが溢れ、拳で硬いアスファルトの床を叩きつける。
いつか私たち家族の元に帰って来てくれると信じていのに。
「……あまりにも酷い……酷すぎる!」
もう一度、拳を振り上げ強い力でアスファルトを叩こうとしたら、誰かが私の手首を掴んだ。
「……パイロットの大切な手だ。大事にしろ」
私を止めたのは息を乱した隼人さんだった。
ぐちゃぐちゃの泣き顔を見られたくなくて、顔を背けて、逃げ出そうとしたら強く抱きしめられた。
目の前には水色のシャツ越しの逞しい胸板があった。熱い体温とホワイトムスクのコロンに交じった隼人さんの香りを感じる。
「離して」
「嫌だ。離さない」
「隼人さんの……高いシャツが汚れます」
「そんなの、また買えばいい。俺が瑞希のハンカチになるから泣け」
なんでそんな優しいことを言うの。本物の恋人じゃないのに。
「……私……ぐちゃぐちゃに泣きますよ。鼻水だってつけちゃうんだから」
「構わない。思い切り泣け」
こんなに優しいことを言われたら抗えない。弱い所は見せたくないのに。
「……うっ、うっ」
隼人さんの胸に顔を埋めると、涙が止まらなくなる。
「大丈夫だ。俺がそばにいる」
泣きじゃくる私の頭を撫でながら、隼人さんは何度もそう言ってくれた。今だけは隼人さんの優しさに縋りたかった。