クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「……さっき、レストランで会った男性は、その……」
躊躇ったように語尾を濁した隼人さんを見て、ちゃんと言わなければいけないと思った。
「父です」
「……そうか」
息をつき、窓の外の遠ざかっていく機体を見ながら、パイロットになったのは、飛行機のことを詳しく知っている父の影響が一番大きかったことを思い出す。
「私、ずっと父に認めてもらいたくて空を飛んで来たんです。立派なパイロットになって、いつか父を見つけて、また胸を張って私のことを『誇り』だって言ってもらいたくて」
父を必死に探していたのはパイロットになった私を見て欲しかったからだ。あの日、フロリダに旅立つ日に父が『立派なパイロットになって帰って来るんだぞ』と言ってくれたから、その言葉に私は縋っていた。私にそう声をかけた日、父は私たち家族を捨てることを選択していたなんて夢にも思わなかった。
「全部、私の独りよがりだった。父はもう私を忘れたんです。新しい奥さんと可愛い男の子と楽しそうに飛行機を見ていて……」
レストランでの光景を思い出して言葉が詰まる。
大きな手が私の頭を包み込み、引き寄せられた。再び触れた隼人さんの体温は、今度はシャツ越しではなく、バスローブの胸元から肌の熱がダイレクトに伝わってくる。
「瑞希。お前が今日まで努力して副操縦士の座を掴み取ったのは事実だ。誰のためでもない、お前自身の力だ。それを否定することは俺が許さない」
顎をすくい上げられ、強制的に視線が絡み合う。至近距離で見つめる隼人さんの瞳は、熱を孕んでいるように見えた。
「いいか。あんな男のために泣くのはもうやめろ」
「……隼人さん」
「空を飛びながら、家族を支えてきたお前は立派だ。だから、あんな男に認められる必要はない。瑞希は俺の誇りだ」
じわりと瞼の奥が熱くなる。まさか隼人さんに誇りだと言ってもらえるとは思わなかった。
再び視界が滲んで、涙が頬を伝う。それを隼人さんの親指が優しく拭った。
「泣くなと言ったばかりだろう」
「……すみません。嬉しくて。隼人さんに『誇りだ』って言ってもらえるとは思わなかったから」
「心からそう思っているよ。瑞希は俺の誇りだ」
熱い瞳に見つめられ、視線が逸らせない。じっと見つめ合ったまま、隼人さんの顔がゆっくり近づく。
吸い込まれそうな漆黒の瞳、長い睫毛。
心臓がうるさい。隼人さんに聞えそうなほど、激しく打ち鳴らされている。逃げなきゃいけないのに、体が動かない。このまま私は隼人さんと――。