クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「どうぞ」
「瑞希といつから付き合っているんですか? 私、全く瑞希に恋人がいたことを知らなかったから驚いて」
「……一年前の四月二十日。高月常務が亡くなる前日だ」
 彼女がまた驚いたように目を見開く。
「そうだったんですか。瑞希、B787に移るまでは高月キャプテンのことを知らないなんて、言ってたんですよ」
「それは俺が瑞希に頼んでいたんだ。兄を亡くしたばかりだったから内緒にしたかったんだ」
 交際日を兄の命日の前日することで信憑性が増すと思い、四月二十日を交際日に決めたが、そんなことに兄を利用する自分がズルイと初めて思った。

「瑞希はずっと幻の彼を想っていると思っていたから意外だったけど、もう一年以上交際されているんですね」

 『幻の彼』が引っかかる。彼女にそんな想い人がいたなんて初耳だ。

「『幻の彼』とは?」
「瑞希から聞いてないんですか?」

 頷くと中村が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「酔っ払うといつも瑞希は『幻の彼』の話を熱っぽく語るんです。その時の瑞希、完全に恋する乙女の顔で、幻の彼のことがすごく好きだと思ってました」
 クスクスと中村が笑う。
 瑞希にそんな相手がいたことがショックだった。

「その『幻の彼』というのは、ディスパッチャーの水沢では?」
 中村が大げさに笑う。

「違いますよ。『幻の彼』はパイロットなので。多分、うちの会社の副操縦士です」
 同じ会社に瑞希の想い人がいると知り酷く胸がざわつく。この気持ちはなんだ? なぜ俺はこんなにも動揺しているのか?

「でも、キャプテンと付き合っているということは、もう『幻の彼』のことは思い出になったんだと思いますよ。瑞希のこと、これからもよろしくお願いします」

 話はそこで終わり、バーを出たが、瑞希の『幻の彼』のことがずっと頭を離れず、帰りのフライトも気を抜くと瑞希のことを考えてしまう始末だった。

 仕事中も女性のことで頭がいっぱいになるのは初めてだった。
 とにかく、瑞希に会いたくて仕方なかった。 
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