クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「なんで横領したの?」
「……上司に逆らえなかったお父さんが悪いんだ。協力しなければクビにすると脅されたんだ。結局、その上司もお父さんと一緒に逮捕されたがな。それでお父さんは執行猶予がついて、その期間が昨日終わった所だ」
「じゃあ、航空博物館に一緒に来ていた女性とお子さんは?」
「今、お世話になっている町工場の社長の娘さんとお孫さんだ。娘さんは離婚されていて、それでこの間は航くんのパパ代わりを頼まれてな。だからこの間だけ航くんのパパになったんだ。決してお父さんは再婚はしていない。籍は抜けたが、お父さんの家族はお母さんと瑞希と菜々美だけだ」

 涙を浮かべながら話す父を見て、嘘を言っているようには見えなかった。

「じゃあ、お父さんは私たちを守る為にお母さんと離婚して、家を出たの?」
「情けない話だが、それしか思いつかなかった。前科のつくお父さんがそばにいたら、身辺調査の厳しい航空会社に就職した瑞希の未来を潰してしまうと思ったんだ。お父さんのせいで瑞希の努力を無駄にしたくなかったんだ」

 父は震える手でコーヒーカップを握りしめた。

「お母さんとは、絶対に真実を明かさないと約束していたが、先日、航空博物館で高月さんに会って、瑞希の苦労を聞いて、本当のことを話さなければいけないと思った。瑞希、ずっとお父さんを探してくれていたんだってな。ありがとう」

 恨んで、憎んで消えてしまえばいいとさえ思った父だったけど、家族を守ろうとしてくれていた。私たちの為に一人で家を出た父のこの五年間を思ったら、涙が溢れる。

「……お父さん、ごめん、ごめんね……」
 父が首を左右に振る。
「謝らなければいけないのはお父さんの方だ。あの時、お父さんに勇気があったら、上司の言いなりにならなかったんだ。お父さんが弱いばかりに苦労をかけたな。ごめん」
「そんなことないよ。お父さんは強い人だよ。私たち家族を守ってくれた」

 テーブルの上の父の皺だらけの手を力いっぱい握りしめると、父が泣き崩れる。私も熱いものが込み上げてくるのを止められなかった。肩を震わせながら父と涙を流した。五年分のわだかまりが流れていくようだった。
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