クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
 カフェを出た後は、泣き腫らした顔で隼人さんを探した。
 父と和解できたのは全部隼人さんのおかげだと思ったら、無性に会いたくなった。
 今日はオフィスでのスタンバイだと聞いていたから、会えるかもしれない。

「南雲、目が真っ赤だぞ」
 ブリーフィングルームから出て来た今岡キャプテンに呼び止められた。
「あの、高月キャプテン見かけませんでした? 今日はオフィスでスタンバイのはずなのですが」
「残念だったな。隼人はさっきヒースロー空港に旅立ったよ。本来の機長が体調を崩して、隼人が急遽駆り出されたんだよ」
 ヒースロー空港と聞いて、両肩を落とした。ロンドンだなんて遠すぎる。隼人さんが帰って来るのは三日後になるだろう。でも、その時、私はパリだ。
 思わずため息をつくと、今岡キャプテンにポンポンと肩を叩かれた。
「会えない時間が愛を育てるんだよ。会えた時は盛り上がるぞ」
 愛と言われて、カアッと頬が熱くなる。
「いや、そういのではなく」
 慌てて否定しようとするが、次の言葉が出て来ない。
 今、隼人さんに会いたいと思う気持ちが自分でもわからない。
「じゃあ、俺もJFK行ってくる」
 そう言って、今岡キャプテンもステイバッグを持って、去って行った。それから更衣室で着替えているとスマホが鳴った。隼人さんからだ。

「隼人さん、フライト中じゃないの?」
 驚いて出ると、『まだ離陸前だ』という言葉が返ってくる。
「まだ羽田?」
『ああ、コックピットで最終確認が終わった所だ。泣きながら俺を探していたそうだが、何かあったのか?』
 きっと今岡キャプテンだ。
「……泣いてませんよ。今岡キャプテンが大げさに言ったんです。最終確認が終わったって事は、プッシュバックを待っている所ですか」
『ああ』
 直接の見送りは無理だと思った。国際線がある第3ターミナルに着く頃には、隼人さんの飛行機はとっくに離陸しているだろう。
『大丈夫か? 問題はないか?』
 心配そうな声がスマホ越しに響いて口角が上がる。
 離陸間際に電話する程気にかけてくれたんだ。
「はい。何も問題ありませんから、心配せずロンドン行って来て下さい」
 隼人さんを心配させないようにできるだけ明るい声を出した。
『三日後、瑞希はパリだったな』
「はい。次に会えるのはきっと来週ですね」
『パリか。わかった。何とかする』
「えっ、何とかするって?」
『行って来る』
 そう言って、スマホが一方的に切れた。
「もうっ、何とかするって……何なのよ」
 ヒースロー空港からの復路のことを考えたら絶対に何ともならない。何とかすると言ったのは電話するという意味だったんだろうか?

 ロッカーの鏡を見ると、目を真っ赤にした私がいた。泣きながら隼人さんを探していたと今岡キャプテンに言われるのも仕方ないかもしれない。
「隼人さん、いってらっしゃい」
 たった今まで隼人さんと繋がっていたスマホを胸に抱きしめ、ヒースロー空港までの安全運航を祈った。
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